水原亜矢子さん 俳句結社久珠の会 主宰「五感で楽しむ俳句で社会貢献」
2018年4月19日(木)放送 水原亜矢子さん 俳句結社久珠の会 主宰(1) |
2017年4月26日(木)放送 水原亜矢子さん 俳句結社久珠の会 主宰(2) |
由結:俳句結社“久珠の会”主催、俳人の水原亜矢子先生と、お弟子様でいらっしゃいますAya 古川さんです。宜しくお願い致します。
水原:こんばんは。
由結:こんばんは。宜しくお願い致します。実は水原亜矢子先生は、俳人で医学博士でいらっしゃいます、水原秋桜子先生の姪御さんにあたられるそうですね。そして今現在も丸の内の日本クラブを始めとして、名門の場所でたくさんの方にご指導をなさっていらっしゃいます。今日は沢山お勉強させて頂きたいなと思います。
水原先生は小さい頃から、句に親しむ、言葉に親しむという環境にいらっしゃったと思うんですが、俳句をお仕事にしようとしたきっかけと言いますか、それを教えて頂けますか?
水原:まず、私が俳句を自分で作って、とても俳句って良いものだな、とても自分の人生で大切だなと思いだしたんですね。最初の作るきっかけは、私が成蹊中学に受かりまして、当時叔父の水原秋桜子が西荻窪に住んでいて、近くなりましたので、それで俳句を見てもらおうと思って、俳句を作っては持って行って、叔父でございますから、添削をしてくれたんです。私が大学の時に叔父は亡くなりましたけれど、その後もそのまま俳句を詠み続け、そしてそのうち皆さん集まって下さって、句会を催し、教えるという、自然発生的に俳句の結社が出来てきたという、そういう流れでございます。
由結:その環境がおありだったという事もあるでしょうけど、先生としては自然とその流れに乗った感じという事でしょうか?
水原:はい。先程の繰り返しですが、俳句を詠むことが自分にとってもとても楽しいことですし、大事な事でしたので、皆様にも俳句の良さを知ってもらいたいというのもありました。
由結:なるほど。そしてそれを実際にお仕事になさって、句会を主宰するようになって、今はどんなお気持ちでお努めになられているんですか?
水原:私自身の会は、久珠の会と申しまして、4つやってますけれど、皆さん、年齢もご職業も男女も皆さん全部違うんですが、必ず行く前に、今日はどんな俳句に出会えるんだろう、それが一番楽しみでございます。
由結:お弟子様の皆さんの作品をご覧になって、どんどん良くなっているなって実感などもおありでしょうか?
水原:はい、良くなる時もありますが、止まってしまったり、それからやっぱり悪くなってしまう場合もあるんですが、それも一つの、その時にどういうお話をして、またペースを取り戻してもらえるかなというのも一つの勉強だと思っております。
由結:色々な方の色々な句から、その方の人生が見えてくるような気がするんですが、そういう人生についても何か指南なさったりなさるんでしょうか?
水原:そうですね、色んな方がいらっしゃって、人生について触られたくない方はもちろん触らないんですが、俳句に出ている、表だけではなくて、裏にあるものを読み取って、お話をさせて頂くことも多いのと、「どうなさったんですか?ご心配なことがおありですよね?」とか、また逆に、良いことはストレートに出ますので、お子様が結婚したとか、ご自分が結婚したという事もございますし。
由結:なるほど、そうすると薔薇色の句になったりするんでしょうね。そういった先生をご覧になっている古川さんは、長年勉強をなさっていると思うんですが、どのようにお感じですか?
古川:私は日本とオーストラリアのハーフで、海外生活がすごく長かったので、漢字もとっても苦手で、ちゃんと日本語もきっちりとはできないのに俳句を始めて、すごく楽しいです。
由結:そうですか、色んな発見がありますか?
古川:はい、俳句のリズム感とか、日本って四季にすごく恵まれてるじゃないですか。それを言葉にして発想するっていうような。
由結:そうですね。古川さんはオーストラリアに元々お住まいでいらっしゃって、その後ドバイにもいってらっしゃったんですよね?
古川:そうです、ドバイにも7年間。
由結:そして今日本に戻ってこられているという事なんですね。そんな国際色豊かなお弟子さんもいらっしゃるという事なんですけれど、先生からご覧になって古川さんはどんなお弟子さんでいらっしゃいますか?
水原:いろんなことに好奇心をまず持っているし、それから綺麗なものが好きで、デザイナーでいらっしゃるので、その辺の感度も良くて、良い句を作ると申し上げたいんですけど、まだ全て完成しているわけじゃないので、これからの将来性のある方と。
由結:なるほど、そういったその方の美的センスというものはそのまま句にすっと出てくるものなんでしょうか?
水原:はい、すっと出る方と、ちょっと鋭角に出される方がいらっしゃいまして、一つはやはり自分を全部出すのが気取りがあって恥ずかしいという方もいらっしゃる。ですから、鋭角に出る。それからそのままストレートに出す方といらっしゃいます。
由結:そうですか。古川さんはどんなタイプなんですか?
水原:古川さんは大変素直な方なので、ストレートに出して下さいますが、何と言ってもお忙しいので、句の数が少し少ないという事があるので、もう少し確率的に完成度を高めることが出来ると思いますね。
由結:なるほど、やはり句を詠むにも、数をこなす、経験を積むっていうのはとても重要なんでしょうか?
水原:はい、これがまたですね、皆様のお顔が違うように、その体質によるんですが、たくさん詠めばいいというものでもないんです。でも少ないよりは多い方が良いと思います。句会を月1回若葉の方でやっているんですけれど、句会で楽しいのが、皆さん句を選句して、その皆さんの表現力、それも凄く楽しいです。
由結:なるほど、人の詠んでいる句を聞いたり、或いは読んでみたりするのは勉強になるという事なんですね。
そして今スタジオにとても素敵なお菓子があるんです。先程も季節感というお話が出てきましたけれど、今日は特別に先生がお買い求め頂いたものなんですよね?
水原:はい、どうぞお召し上がりになってください。
由結:はい、有難うございます。1つは桜餅なんですけれども、本物の生の桜が付いていますよね。本当に美しいですよね。
水原:これは近所の和菓子屋さんに、今日の日の為に特別頼んでおいたものでございまして、皆さん桜餅が好物でいらっしゃる方も多いと思いますが、今ですと、和菓子屋さんは早いものですから、柏餅の方になってしまうんですね。その桜から柏餅という様に、季節によってどんどんお菓子を変えていく。桜餅から柏餅になって、皆さん5月になっていくんだなっていうことを、召し上がるものからもよく知ることができるという。
由結:なるほど。まず手に取った時に、この柔らかさであったり、それから今この日差しに当たった桜の感じ…この自然界の中に生かされているなとすごく有難い感じがするんですけれど、失礼して一口頂かせて頂きます。
そういえば私今年初めて桜餅頂いたので、なんだかすごく感動が広がっているんですけれども、塩味があるんですが、その中に桜の優しい感じ、甘さがあって、本当に幸せな心持ちがいたします。
水原:皆さんやはり日本に産まれると、もう今散ってしまいましたけれど、春に桜っていう事が、好かれている、愛されてる一番の季語だと思うんですね。今召し上がって頂きましたが、桜は俳句の中で最も大切な季語で、“花”というのも桜のことなんですね。“雪月花”という言葉がありまして、“雪”はゆき、“月”はつき、“花”ははなと書くんですが、雪月花の“雪”は冬の季語、“月”は秋、“花”は桜を指します。桜餅も季語ですし、花で言いますと、“花の雨”と言いますと、桜の時に降る雨で、桜を散らしてしまう。それから“花冷え”と言いますと、桜の咲く頃に冷える天候を申しますし、“お花見”というのは皆さんが観に行くことですし、花という言葉は沢山季語がございまして、凄く多方面に渡っているんでございますね。
由結:なるほど、素敵ですね。句会でもこんなふうに先生のこのご講義を聞きながら、美味しいお菓子も頂けるわけですね(笑)。
水原:はい、今月は桜、題を毎回必ず出しますので、おやつは桜餅出ますよねっていう風にメールが来たりして、おねだりのメールが参ります(笑)。
由結:そうですか(笑)。本当に皆さん楽しみになさっていて、五感で楽しめるという会ですよね。先生には来週ももご登場頂いて、このお話の続きを伺っていこうと思います。
由結:さて、先週もとっても美しい桜のお菓子を私食べさせて頂いたんですけれども、先生が特別に揃えて頂いたお菓子なんですが、こういった桜の季節のお菓子を目の前にして、一句詠んだりという様な事を生徒さんなさるんですか?
水原:はい。皆さんお菓子が好物なので、なるべく食べる前に詠んでくださいと言っておりますけれども、何人かの方は、俳句を詠む前に無くなっているという事もございますね(笑)。
由結:なるほど(笑)。やはり味覚、五感のうちの一つなんですけれども、これに働きかけるお菓子っていうのはとても強力なものかもしれませんね。
古川さんは水原先生にご教授頂いて長いかと思うんですけれど、いつもどのようにお勉強なさっているんですか?
古川:私は生徒の中ではちょっと不真面目な方なんですけれど、もちろん日本語よりもどちらかと言えば英語の方が私の場合は堪能なので、でも俳句を始めてから、日本の季節感とか、そういう意識がもっと高まったなって思いますね。
由結:そうですか。本日も先生と古川さんのお衣装がとっても素敵なんですけれども、先生のお着物はやはり意識して本日いらして頂いたんでしょうか?
水原:はい、比較的、桜の図案化した着物って昔から多ございまして、桜の描いてある着物になっております。
由結:古川さんも桜色のスーツ、ジャケットをお召しなんですけれども、やはりそういったところもお考えになっていらっしゃるんでしょうか?
古川:もしかしたら今日は無意識だったのかもしれないです。言われてみたらそうですね。
由結:そうでしたか。そういった季節感というものが俳句には欠かせないものだと思うのですが、先生は春の一句と言いますか、特にお気に入りのものというのは、ご自身のもので、たくさん素晴らしい句を詠んでいらっしゃるんですがありますか?
水原:非常に俳句的なんですけれど、春、桜、桜は花とも表現できますので、詠みますけれども、毎年その桜をみて詠んでいくんですね。そうすると自分の人生とか、自分の心持の変わり方がよくわかりまして、どういう風に変わったかと言いますと、ちょっと若い頃ですね、“花の雨 会えずに紅を 重ねおり”という。花の雨というのは桜に降る雨で散るんですね。会いたい人がいるんですけど、会えないので、紅を重ねるという事は、口紅だけ塗って、我慢をしているという、我慢をしている若い頃。これから何年か経って今度はどういう句になりますかというと、“なが為に 惜しまぬ命 花の雨”と呼んでいるんですね。同じ花の雨ですけど、花が散っていって、綺麗に散ったんだけれども、結局散らざるを得ない雨で、惜しいけれど、散っていくものだなという、やはりこれも失恋しているに近い一句目ももてない、二句目も失恋で、最後はどうなりますかって言いますと、今年の句ですが、どうなったと思いますか?
由結:どうなったんでしょうか?
水原:“散りやまぬ 夢の欠片の 桜かな”と、やっぱり夢だったんだ、やっぱり成就しなかったと。
由結:まあ…。
水原:非常にかわいそうなんです。別に自分で意識して、去年こうでああでってやっているわけではなくて、よく見ると、桜の頃に思っていることで、やはり成就していないんですね。その前に2年くらいあって、去年は何だったのかと思いますと、もっと悲しい俳句で、花の雨じゃなくて、“花吹雪”。花吹雪ってやっぱり花が散るんですね。“花吹雪 やまず一人の 夜の流し”そういう失恋の句でございまして、毎年、来年は違う句を詠もうと思っております。
由結:そうですか、すごく切なくなるというか、胸がきゅうっと締め付けられるような、そんな気持ちにさせられました。その句を詠んでらっしゃる時というのはどんな心持ちなのでしょうか?
水原:プロフェッショナルなところからいきますと、全く客観的ですと、恋が成就したってあんまり好かれないんですね。失恋したって句は皆さん何故かお好きなんですね。そう思っているわけじゃないんですけれど。やっぱり桜を見ていると、何か素晴らしく美しいのと同時に、何かこう、散る時の悲しさを感じるんですね。それと恋をくっつけると、こうなるかなという。
由結:なるほど、すごく奥深いものなんですね、いつも先生の講義というのはこういう深い解説があるんでしょうか?古川さん。
古川:はい、深い解説ももちろん。それと、どちらかというと、皆さんで選句をしながら、やっぱり人それぞれ取り方も違うと思うので、とても楽しいです。
由結:そうなんですね。やはり勉強になるとともに、笑いが絶えなかったりする場面もあるんでしょうね。この日本倶楽部などは本当に名門の会場なので、皆さんそういった場所で句を作られるというのは、すごく心が躍る場面じゃないかなと思うんですけれど、古川さんは行かれてどのようにお感じになりますか?
古川:やっぱり日本倶楽部はとても眺めが、皇居の方ですごく素敵なので。
由結:はい、なるほど。先生はいろんな場所でこの教えを広めてらっしゃると思うんですが、先生の句以外にも、他の方の句でこういうものがあるっていうのをお聞かせ頂けますか?
水原:まず普通に句会ですと、先ほどの様に自分の句をあまりお話はしませんで、他の生徒さんの句をこれはこういう風でいいですよってお話をさせて頂くことが多いんですね。最近例えば日本クラブですと、“広辞苑 新版入所 風光る”、風光るが季語でございます。広辞苑を新しいのを買ったと。そうしたら風が光るように感じたということで、この句が80歳以上の方なんですね。素晴らしいお勉強をこれからもしようということで、これは良句だなと思っております。
それとですね、私が言っている今までのお話というのは、私がやっている句会ですが、何か社会的貢献をしようと思いまして、いわゆる介護付きの有料老人ホーム、チャームケアコーポレーションという会社がやってらっしゃるんですが、そちらの方と相談をしたら、是非俳句やりましょうという事になりまして、場所は聖蹟桜ヶ丘。今年と去年引き続いて、“チャームスイートプレミアム“というのを深沢と田園調布に作られてらっしゃるような、ワンランク上の物ですね。なぜそういうものを作られたかというと、アートとか芸術に皆様に及ぼすことに対して、非常に関心を持っていらっしゃいまして、生活の中に芸術をいれて、皆様の心を感動させたいと思ってらっしゃるんですね。
皆様どのような俳句をお作りになるかと言いますと、これが大変お上手で、私の現在言っている中でも素晴らしいのは、こちらが持っていらっしゃる聖蹟桜ヶ丘というところで、男性で寺内様という方がいらっしゃって、“紅梅や しみじみ想う 母の事”これは男性でいらっしゃるんですね。それと、この方達の素晴らしい俳句で、“暗闇の 冷えきし夜空 犬が吠ゆ”これはさちこさんという方が作られていらっしゃるんですね。それと、“亡き姉を 瀬名に詣でる 梅湯島” これは、すまこ様という女性でいらっしゃいますけれど、皆様お若い頃を思い出して、お姉さまは恋に走って、悲恋で亡くなられてしまったそうなんです。一緒にお暮しになったけれど、結局は亡くなられた。その湯島だった。湯島に詣でると、それを常に思い出す。そういう句を詠んでくださって。
由結:この情景が目に浮かぶというのが素晴らしいことですね。先生としては、沢山ある中で今の句を選ばれた理由というのは、どんなところにあるんでしょうか?
水原:やはりその方の想いの濃度の強さですよね。いつも思い出されるそうですよ。
由結:濃度の強さ!なるほど。それが句に如実に表されているという事なんですね。きっと句会でも一生懸命に考えていて、いつも選ばれる場合と、今日は駄目だったっていう日もあると思うんですけれども、それもやはり経験なんでしょうか。
水原:はい、もちろんこの濃度の強さを如何に17音にもっていくか、それを如何にデフォルメしたり、簡略させて相手に伝えるかという事が大事なので、それはテクニックなんですね。でもこういう句はテクニックを超える内容を持っている句もあります。
由結:先生には沢山教えて頂きたいことがあるんですが、そろそろお時間になりましたので、最後にリスナーの方に向けてメッセージをお願い致します。
水原:俳句は日本人にとって大変有意義だし、素晴らしいものだと思います。どうぞ皆様も明日の生活の中で何か素敵な事や、素敵な自然を見つけたら俳句、してみようかな、詠んでみようかなと思って下されば幸いでございます。
由結:はい、有難うございます。