源 光士郎さん 武楽(ぶがく)創始家元「日本の美を世界へ。」
2017年12月14日(木)放送 武楽 創始家元 源 光士郎さん(1) |
2017年12月21日(木)放送 武楽 創始家元 源 光士郎さん(2) |
由結:本日の素敵なゲストをご紹介致します。「武楽(ぶがく)」創始家元の源光士郎さんです。よろしくお願い致します。
源:よろしくお願い致します。
由結:今私の目の前に素敵なお着物の男性が座ってらっしゃるんですけども、まず源さんのプロフィールを簡単にご紹介させて頂きたいと思います。
源さんは武道と伝統芸能のサムライアート「武楽」の創始家元で、2006年、「武の美」を提唱し「武楽座」を旗揚げなさっています。そして文化貢献をなさったということで、東久邇宮文化褒章を、また知的創造に対しては東久邇宮記念賞をそれぞれ受賞なさっています。そしてこの秋にはイタリア王家のサヴォイア家フェリベルト皇太子殿下が御主催あそばされました慈善晩餐会にてオープニングセレモニーを務められたほか、グッチ創業家4代目グッチオ・グッチ氏より「芸術だ」と称賛を得るなど、国内外問わず素晴らしいご活動をなさっていらっしゃいます。
源:ありがとうございます。
由結:沢山ご紹介したいことがあるので1つずつ伺っていきたいと思いますが、まず、この「武楽」というのは一体どんなものか教えて頂けますか?
源:まず武士の“武”に音楽の“楽”と書いて“武楽”と申します。こちらは、伎楽であったり雅楽、猿楽、田楽、能楽といった日本の伝統的な芸能の名称の系譜につらなる、武士の美意識を表現した芸能として構成したものでございます。
由結:“武士の”というのが1つのキーワードですね。そして「武の美」とご紹介したのですが、これは一体どのようなものになりますか?
源:まず1つには、武道の動きの中に「研ぎ澄まされた美」というものが見いだせます。オリンピックでも柔道の試合などで「芸術的な一本でした」という表現があると思いますが、かといって柔道が芸術かというと「芸術」という認識はまだないと思うんです。ですが実は、身体の動かし方というか表現として、バレエなどの芸術的な表現に勝るとも劣らない芸術性があるという立場に立って、一つはそういう武道の身体の使い方の美のことを指します。それと刀であったり武具、そういった物に現れる武士の哲学を含んだ芸術性を、総合的に総称して「武の美」と表現しております。
由結:本当に深いですよね。先程身体の使い方と仰いましたが、源さんもご登場なさった時から本当に目が離せなくなる位凄く美しい動作をなさるんですが、私も実際に舞台を拝見させて頂いて、源さんが入って来られた瞬間に空気がピンと張りつめるといいますか、新しい世界を開けたような感じがあったんです。これはやはり仰った身体の使い方の鍛錬によるものなのでしょうか。
源:そうですね、主に軸を立てて腰、つまり「体幹」というのが今よく流行っていますけど、その体幹を持つことによってブレない歩き方であったり。上下に頭がブレないとか皆さん分かりやすいと思いますけども、実は上下だけじゃなくて前後左右というのがあるんです。その全てが美しく整うことによって空気がピンと張ったような、そういう佇まいを表現することが出来るようになります。
由結:上下だけじゃなくて前後左右もあるんですね。
源:前後というのは鳩とかニワトリが歩く時に首がこう…
由結:あ~!ありますね。
源:そういった時にもう少し気品を出したいなという時もありますし、或いは足それぞれに、右足左足に体重を乗せて歩くような形ですと、どうしても頭が左右にブレてしまうんですね。それをしっかりと腰で、体幹で支えてまっすぐ歩くということを訓練することで、左右のブレも抑えることが出来ます。
由結:そうなんですね、これは素人、初めて習いたいと思った方が真似してすぐ出来る様なものではないんでしょうね?
源:やはり心得がある方、体幹自体が備わっている方ですと、意識次第でだいぶ変わると思います。例えば、ロッククライミングをするという時に、懸垂が1度もできない人は難しいと思うんですね。やっぱり基礎体力というのも大切で、そういう意味では体幹の筋力というものはあった方が美しい佇まいには良いと思います。
由結:なるほど。
源:体幹というのは言い換えれば姿勢を正す筋肉なんです。それを鍛えることで姿勢が美しくなるというのは当然のことなんです。
由結:源さんのように軸がブレませんし、お座りになった瞬間から佇まいが美しいんですが、昔からこの様なお姿だったんですか?
源:やはり私は小さい頃から剣道であったり武道をやって来まして、そういった中で姿勢を正すのが自然と身についてきたというのはあります。
由結:なるほど。その頃から“武士の美”という心、「武の美」には関心があったのですか?
源:そうですね、最初やはり小さい頃始めた時には、皆さんもそうだと思いますが、「かっこいいな~」とか「強くなりたいな~」とかそういう気持ちからだったと思うんです。ですが次第に試合の中でも、勝っても勝ち誇ったりしないとか、相手を思いやる心であったり、礼に始まり礼に終わるとか、そういったことを通して精神的な美しさというものも自然と身に付いていくと言いますか。そうした経験は大人になってから非常に役立ちましたが、思い返しても厳しい世界だったんです。
由結:といいますと?
源:やはり、礼儀に反するようなことがあれば厳しく叱られる世界でしたし。今は若い方が怒られ慣れていなくて何か注意された時に、対処法に困ってしまうという問題が起こっていると聞きます。そういった意味では、私は非常に怒られ慣れていまして(笑)、多少のことでは動じない、結局何か問題が起きた時に慌てずに対処できる平常心といいますか、心が無駄に揺らがない。そういったことにも非常に武道というものが、役にたったというのが実感としてあります。
由結:それだけのご経験をなさって武楽というものを立ち上げられたのですね…。立ち上げられて、今どの位の期間が経っているんですか?
源:今年で丸々11年になりますね。(収録時2017年現在)
由結:そうですか、ある意味10年経ってその次のステージに行かれようとしているのではないかなとも思うのですが、いかがですか?
源:仰るとおりでして、最初の10年というのは武楽という新しい定義を0から1にしていく期間として計画しておりまして、その点においては、実際に武士が稽古していた古武術と、たしなみであった文化教養としての能や茶の湯の要素を多角的に融合しているのですが、能とバレエが同じ舞台に立つ…それで新しいジャンルが生まれたとは言わないと思うんです。
由結:そうですね、別物ですものね。あくまでも。
源:武楽では一人一人の演者が、能と武道という物をもっと有機的にというか、密接に体の使い方とか基本的なメソッドを共有した、「これぞ武楽」というようなものを構築することがこの10年では出来たかなと。
由結:能や甲冑のお話もまた来週ご登場ということですので伺っていきたいと思います。本日はありがとうございました。
源:ありがとうございました。
由結:それでは早速、本日も素敵なゲストをご紹介致します。武楽創始家元の源光士郎さんです。よろしくお願い致します。
源:よろしくお願い致します。
由結:2週目ご登場いただきましたが、本日も素敵なお着物姿でいらっしゃいます。源さんは今ご紹介しました通り、武楽の創始家元でいらっしゃるのですが、この「武楽」に対して詳しくお伺いしようと思います。どういう格好でどの様な感じでパフォーマンスなさるのか、という所をまずは伺いたいのですが…。
源:まず立ち姿としては、武士がたしなみとしてやっておりました“能”ですね。能と歌舞伎はよく似ているのですが、大きく違っております。歌舞伎は庶民の方も楽しめる娯楽ですけれども、能は、式典の際に演じられるなどした武士の「式楽」という側面があったのです。その昔は神事であったり、ショーとか芸術というよりは人間が生きて行くため、人のために生まれたといった側面がありました。その武士のたしなみの能の装束は、普通の着物と比べるともっと大きくて、西陣織であったり金襴の金糸が入った物だったり豪華絢爛な形なんです。そこであしらわれている図柄などに武士が愛した美意識という物が含まれている。それで、演武としてはまず、武士が実際に稽古していた古武術の技とか型を能の所作でつないでいくというような形になっています。武道と能というのは全く違う物のように見えるのですが、使われている身体の使い方というのは、軸を立てて腰をじっくり据えて、そして半身の動きや、地面を蹴るというより自然の重力を利用した身体の動かし方というものが根底にあるなど、非常に関連する所があるんです。
由結:なるほど~その様な所作を身に付けると、日常生活が美しく見えるようになるのでしょうか?
源:これが見違えるように、皆さん美しく変わられます。
由結:どなたでも体験したりすることができるんでしょうか。
源:可能でございます。
由結:今ちょうどパンフレットがあるのでお見せしたいと思いますが、本当に衣装が華やかですよね~。動きもきっと、美しいだけじゃなくてダイナミックな動きもなされているんじゃないかなと思います。能というと静かな静の動きという…。
源:そうしたイメージが強いですね。
由結:それでは、古武術というとどんな感じになるのでしょうか。
源:そうですね、古武術の方は、薙刀や刀を使いますので、その部分に関しては動の動作といいますか、速さもありますよね。速さといっても無駄に速いのではなく、最短距離を「飛ばす」というか「つけて」いくものです。
由結:なるほど~、本物って無駄がないんですね。
源:無駄がないんです。ですから、いわゆるチャンバラの演劇とはまた異なったものに見えると思いますが、“カッコよく見せる”というために作られた動きではないんです。目的を達するために出来た動きが、結果的に研ぎ澄まされて美しくなっている。そこの「美」というものを大切にしています。
由結:源さんが色々な所で国内外問わずご活躍で舞台に登場されていますが、例えばこういう動きをするとか、どの位の時間出ているのかとか思いますが、様々なのでしょうか?
源:そうですね、まず大使館の催しであったりとか、各国のジャパンエキスポのような日本の文化を紹介する催しに呼ばれたりとか、そういった場面ですとそんなに長くはなく、5分~10分位という場合もあります。ただそこでの私たちの役割りというのは、5分でも催し全体の雰囲気を、空気をガラッと変えてピッと引き締めるというような役割です。
由結:源さんが登場する事によって、イベントの格式が上がるんじゃないかと思いますけど。
源:そこまで言って頂けると大変ありがたいことですが、確かに装束の力を借りたりして、普段は目にすることが少ないかもしれない世界観を見て頂いて、またその動き自体に普段以上の緊張感みたいなものを持っているので、そこで会全体の空気や場の空気を張りつめるというか、清めるような心でやらせて頂いております。
由結:そうですね。私も一度拝見させて頂いて、源さんが登場した瞬間に舞台の空気がパッと変わって。素晴らしい式典が更に素晴らしい物になったなという印象を受けました!
源:ありがとうございます。
由結:この秋にはイタリア王家のサヴォイア家フェリベルト皇太子殿下御主催の晩餐会でオープニングアクトの演武をなさったり、他にもフィレンツェ、パリ、ロンドン、ローマ、上海、台湾、サンパウロ、他にも様々な所を回られて。
源:そうなんです。この武楽というものを通して、日本の心や美意識というものを発信することに、少しでも貢献できていればと思っております。
由結:海外の様々な人にお会いになっていると思いますが、反応はいかがですか?
源:これは驚くほど喜んで頂けまして、日本に元々ある武術や能、琵琶などの楽器でも、それらが持つ力というのが、日本人の方が思っているよりももっと価値があるんですね。そういったものを少しアレンジというか見せ方を変えつつ、能舞台であっても非常に現代的な環境であっても見せられるなど、決まった形に捉われず、守る所は守り、それをもう少し裾野を広げるような働きが、私たちにとって役割として果たしていければ幸いだと思って活動しております。
由結:なるほど~、今どんどん広がっているということなんですが、こういった武楽に関心がある方はどういう風に体験できるのでしょうか。
源:毎月、私たちの稽古場で「体験会」というものを催しております。稽古場は、新宿区の高田馬場からひと駅の下落合駅が最寄りで、そこから3分位の所にあります。稽古場兼「サムライギャラリー」として、甲冑や刀、装束や能面の展示も行っている場所です。
由結:そうですか。どんな方が稽古に来られているんですか?
源:体験に関して言えば、外国の方も続々来て頂いております。あるいは、入門されている方にはプロのダンサーさん、シンガーさん、表現者の方も多くいらっしゃいます。他には寺子屋塾をされている先生などもいらっしゃいます。
由結:皆様本業でもご活躍されていて、そこに勉強されて稽古されることによって、+aで輝きを増していかれるのでしょうね。今外国の方、海外の方と仰いましたが、例えば日本にお住いの海外の方も沢山いると思いますが、皆さん凄く関心が高いんじゃないかなと思うんですけど。
源:そうですね、文化の側面で言うと、日本の方よりも詳しいんじゃないかなと思うくらい関心が高い方もいらっしゃって、今後、日本に住んでいる外国の方もぜひ習いに来て頂きたいと思っているところです。
由結:源さんが発信されている世界観というものを皆さんに体験して頂きたいなと思いますが、今後源さんが世界にこういうふうに武楽を伝えて行きたいというのはありますか?
源:日本の文化というと、今若い方でも敷居が高いなとか中々踏み込めない所もあると思いますが、一方で武道というものは、例えば柔道で言えばフランスで60万人の競技者がいて、世界で言うと1000万人弱がされているんです。空手はというと、5000万人とか1億人、オリンピック競技にもなりまして桁違いの人がされています。そういった武道というものを通して、武道の側面を持った武楽を「空手とか柔道には興味がないかもしれないけど、武楽には興味がある」という方に、海外の方も含めてどんどん世界に向けて発信していきたいなと思います。
由結:ありがとうございます。それでは一言リスナーの方に向けてメッセージがありましたら、お願いしたいんですけれども。
源:そうですね。私たちが「武楽」を通して為していきたいことというのは、それぞれの人生を通して成し遂げて行きたいミッションにフォーカスした生き方や、「自分さえ良ければいい」のではなく、どう社会や世界に貢献して行けるかということです。あとは、自分が得た武器とか力とかそれぞれあると思いますが、そうしたものを得た「義務」というのはあると思っておりまして、それをしっかり「役目」として果たしていくような美しい人材になること。その「芸術品のような生き方」という芸術行為を、皆さんにも味わっていただきたいと思っております。芸術のような生き方、人生そのものをアート作品のように美しくしていこうという思い、そういったことを通して美しい世界の実現に貢献できればと思っております。
由結:ありがとうございます。それでは源さん、2週にわたりご登場頂きましてありがとうございました。
源:ありがとうございました。