一噌幸弘さん 重要無形文化財総合指定保持者 能楽師 一噌流笛方「研ぎ澄まされた一音が切り開く世界観」
銀座ロイヤルサロン1週目
由結:さて本日の素敵なゲストをご紹介致します。重要無形文化財総合指定保持者・能楽師・一噌流笛方、一噌幸弘先生です。よろしくお願い致します。
一噌:よろしくお願いします。
由結:先生は能楽師として第一線でご活躍。様々な笛を使いこなしていらっしゃる達人でいらっしゃると言うことで、本日お話伺えますことを楽しみにしておりました。
一噌:有難うございます。よろしくお願いします。
由結:今冒頭でおかけした曲。素敵な音色でとても恰好いいですね…!これはどのように作曲なさったのでしょうか。
一噌:はい。作曲にあたっては、日本と、あとリズム的にはフラメンコの要素が入っているのですね。音階も日本の都節音階とハーモニックマイナースケールが両方入って組み合わさっている曲なのです。
由結:和と洋とが融合されている…?
一噌:そうですね。和と中東のほうですかね。
由結:なるほど。様々な曲も先生が作曲なさると言うこともよくおありだそうですが、今までに楽曲提供された方もたくさんいらっしゃいますね。紅白歌合戦のときは、藤あや子さん。
一噌:はい、一緒に共演しました。
由結:それから、”石川さゆりさん”。
一噌:「”天城越え”を能楽アレンジでやってください」と言う話があってやりました。
由結:素晴らしいですね。そして先生の目の前に今数えきれない程の笛があるのですけれども、私今、凄く圧倒されております!なんでも先生は500本ぐらい笛をお持ちだそうなのですね。
一噌:そうですね。ザッと数えたらそのぐらいあると思うんですね。それで日本の笛が一番多いですけど、他に他の国の笛もたくさんあります。西洋の笛も沢山あります。
由結:なるほど。先生は幼少の頃から笛と言うものが身近にあってお育ちになったと思うのですけども、このように沢山の種類の笛をお持ちのかたと言うのは少ないのではないのかなと思うのですけれども。
一噌:多分うちは笛の博物館が開けます(笑)
由結:まぁ、そうですか!何かきっかけがあったのですか。
一噌:まずうちは笛の流派の家なので、それで小さい頃から笛の音を聴いて育ちましたけど、能楽の笛ですね。”能管”と言う笛なのですけど、それは絶対音が出ない。調律されていないから、子どもの頃いわれていたのは、他の楽器と他のメロディーの楽器と合奏するのは無理だと言われていたのですけどね。でも色んな笛に出会う度に、色々技術を駆使すればどうにでも音程を自分でコントロールして色んなことができると言うことを自分でちょっと色々考えていったのですけど。
由結:独自の世界を作っていかれたのですね。
一噌:色んな笛に出会った結果、段々そうなっていったと言う流れがありますね。まずは最初は小学校でリコーダーを習うので、リコーダーをやりだして、そのリコーダーの全盛時代がバロック時代ですよね。バロックの作曲家と言ったら、”ヨハン・セバスチャン・バッハ”とか”ヘンデル”とか”テレマン”とか”ヴィヴァルディ”とかが、リコーダーのソナタとか協奏曲の素晴らしい曲を作っているので、これを聴いて「これは凄い!」と言ってのめり込んじゃったんですよね。
由結:感動なさったのですね!
一噌:そうですね。それでそのうち段々今度はジャズとかロックに出会いまして。即興演奏と言うものがあると言うので、これがまた面白い。自由に色々即興して。即興のルールも色んなルールがあって、音階が決まってて即興やるとか。コード進行が決まってて即興やるとか。全くのフリーで演奏するとか。色々面白い。拍子だけはあったりとか。しかもそれが変拍子だったりとか。
由結:面白い世界だったのですね。
一噌:そこから何かどんどんハマっていっちゃったんですよね。リコーダーも音程を出るように作られてますよね。しかし、能楽の笛と言うのは音階の概念があまりない時代からあるから。
由結:そうなのですか!
一噌:室町以前の時代は調子はありましたが、割と音階の概念が現代のようにはっきりないのですけど、だから能管はその楽器楽器によって律が違うのですけど、大体大まかにはちゃんとあるのですけど、それは色んな奏法を駆使しまして、吹く角度で音程変わるんです。あとは指を半分、半分にあけたり。あとクロスフィンガリングとか。こんなふうに。
由結:あっ、なんとなく見たことがあるような気がしますけど。
一噌:これはリコーダーで言う、リコーダーやバロックのフルートなので。半音階を出して。あれと連動させて色々やれば、音程が作れるんだ、と。
由結:気づかれたのですね!
一噌:そうです。自分で色々考えていったのですね。
由結:うわー、そうなのですね。それで先程冒頭で聴かせて頂くような素晴らしい音が出るのですね!先生、お話が尽きないのですけれども。あっという間にお時間になりました。先生のこの素晴らしい曲を聴くことができる機会がもうすぐありますね。
一噌:ありがとうございます。
由結:まずは2月17日、”物狂(モノグルイ)”と言う。これは吉祥寺ですか?
一噌:はい。吉祥寺の”MANDA-LA2”でプログレのドラムスの吉田達也さん。もう凄い!変拍子バリバリで、もう変拍子大好きなドラマーと、原田依幸さんと。本当に素晴らしいピアニストですね。
由結:はい。このコラボが見ることができると言うことですので。19時開場で19時半開演。MANDA-LA2で行われますので、是非皆様お問い合わせなさってみてください。先生の情報はホームページをぜひチェックなさってみてください。
一噌:ありがとうございます。
由結:それでは先生、名残惜しいのですけれども、来週もまた出て頂けると言うことですのでお待ちしております。
一噌:はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。
銀座ロイヤルサロン2週目
由結:それでは本日の素敵なゲストをご紹介致します。重要無形文化財総合指定保持者・能楽師・一噌流笛方、一噌幸弘先生です。よろしくお願い致します。
一噌:よろしくお願いします、どうも。
由結:本日も素敵なお話を色々と伺いたいと思います。
一噌:ありがとうございます。
由結:はい。前回もこの目の前にあります、沢山の笛。これに触れられたきっかけを教えて頂いて、私も目から鱗だったのですけど。笛はきっと凄く長い歴史がありますよね。
一噌:そうですね。日本はもう”笛の国”と言っても言い過ぎじゃないかなと思いますね。
由結:”笛の国”ですか!
一噌:もう色んな種類の笛がありますね。私は能楽の笛の家に生まれたので、それでこのようになっていったので、先週話したような話でなったのですけど。
由結:もう本当に能楽のいわゆる”能管”と言われる笛ですよね。それ以外にも日本の笛、そして西洋の笛。それから”角笛”なんかも目の前にありますけれども。
一噌:これ、正確には”ゲムスホルン”と言いますね。角笛なのですけど、牛の角でできております。
由結:それぞれの笛には特徴がありますよね?
一噌:音色がだいぶ違いますよね。指使いもだいぶ違います。能管自体、洋楽器と合わせる時はその笛・笛で指使い変えないとならないですね。
由結:なるほど。そうなのですね。笛を吹かれる時はやはりとても肺活量がいるんじゃないかと素人は思うのですけれども。
一噌:あー、それはよく言われますけど、そうですね。どうなんでしょう?やっぱり鳴るポイントに当てるのが、当てて吹くのが。やっぱり力任せにやると駄目ですね。それは楽器全部に言えますね。ピアノもギターもバイオリンも。力任せにやるとやっぱり音は鳴らないですよね。脱力をして、力を抜いてしなるように。だから息も鳴るポイントに当ててやるんです。
由結:なるほど。そういった修行と言うか、そういうのを重ねられて今の先生があると思うのですけれども、他にも楽器などはなさったりするのですか?
一噌:ピアノとギターを。最近何か外にピアノ置いてありますよね。あれ弾いて動画にアップしたりしてますね。Facebookにアップしてますけど。
由結:ねー、沢山先生の素晴らしい情報があると思います。ファンのかた皆さんご覧になっていると思うのですけれども。そういった様々な楽器を使いこなして、そして様々なジャンルのアーティストのかたともコラボレーションして、そういうご活動なさっていて如何ですか?
一噌:そうですね。私は能楽の世界、そこが”本業”と言うのか、なんて言うのかな?そこにいまして、やっぱりそこだけにいるとそこの本質的な良さとか、特徴と言うのが、やっぱり他のジャンルのことをやってみて、「あっ、能はこうだったんだ」と再発見すると言う。だから日本を出て海外に行くとよく日本の良さが分かるとか。
由結:外から見た日本が。
一噌:そうですね。発見がありますよね。あと縦笛と横笛とやりますけど、やっぱり縦の笛とは違うんですよ。
由結:どんなふうに違うのですか?
一噌:縦の笛と言うのは何と言ったらいいかな。例えばリコーダー系の笛と言うのは、息が全部逃げないで全部集中して音になるんですよ。横の笛はそういう音じゃないんですね。強い音なんですけど、やっぱりサブトーンと言いますか。それが結構ありますよ「サーッシューッ」と言うの。それがまた日本の笛の特徴なのですけど。”ムラ息”と言う。
由結:横に逃がすみたいな感じになるのですか?
一噌:こんな音ですね。【笛の音】。これは極端ですけど。これは”ムラ息奏法”と言います。だけどリコーダーだとこういうふうに【リコーダーの音】。こう集中した音ですよね。
由結:音がこの筒の中をスーッと抜けいていく感じですね。
一噌:そうですね。お互いの良さが分かると言うのがありますね。あと古典をやっていて現代をやると古典の良さが見えてくるし、また現代の良さはどうなんだかと言うのも。あと西洋を知ることによって、東洋の良さはこういう所だと言うのが見えてきたりとか。
由結:なるほど。凄く奥深いですね。こうやって先生のこの独自の世界観と言いますか、素晴らしい世界が広がっていると思うのですけれども、こういうことやってみようみたいなことは先生ご自身で考えられるのですか?
一噌:はい。いろいろなアイデアで曲を考えたり、ある曲を聴いて「あっ、これは面白いな」と思って、じゃあこれを自分なりに何かいろいろ変化させたりとか、このアイディアを変拍子にしたりとか、ポリリズムにしたりであるとか、音階を違う音階に変えてみたらどうなるのかとか。違う音を加えたり、何かそういったふうな考えで作曲して色々考えていったり。色んなちょっとしたことでも目を光らせて。光らせてと言うか、色々な思いをめぐらせてやってますね。
由結:なるほど。アンテナをたててるとか、それが降りてくると言うことなのですかね?
一噌:はい。
由結:また近々コンサートと言いますか、沢山先生の音を聴く機会もあるかと思うのですけれども。今度は2月24日にもありますよね? 千葉の青葉の森で2月24日から14時から行われますけれども、”青葉の森公園芸術文化ホール”で行われます。それから、それ以外にも沢山あるのですけれども。
一噌:ちょっとチラシがそれしか。
由結:あっ、そうですね。沢山ありますけれども、これは10月31日まで。
一噌:これはちょっとまだまだ先ですけど。こちらはバッハの”管弦楽組曲第2番”と”ブランデンブルク協奏曲の第4番”を演奏致します。日本の笛で演奏します。
由結:わー!凄い画期的ですよね。こういった構想など、これ以外にも沢山ありますので、是非一噌幸弘先生のホームページご覧頂ければと思います。先生今まで色々こういった笛にも触れられて、様々な趣味もお持ちだと言うことなのですけれども。ちなみにジープに乗っていらっしゃると言うことなのですね?これもきっかけがおありがったのですか?
一噌:そうですね。何か面白い車ないかなと思って色々探していたら、まだギリギリ三菱が民間に”三菱ジープ”。自衛隊が使っているのとほぼ同じのジープを売ってて、それをこれ面白いなと思って。それで思わず買っちゃったんですけどね。それでエアコンは点かないし、雨は漏るし。それで80キロ出すと会話ができなくなって。うるさくて。もう過酷な車ですね。
由結:えぇ。でもそれをあえて選んだのはどうしてですか?
一噌:だけど面白いんですよね。凄いシンプルな。電気系統とかがコンピューター系統が何もなくて、半永久的に乗れる車なんです。
由結:なるほど。笛を持った状態でジープに乗られることもありますか(笑)。
一噌:ありますよ。たまに信号待ちで何か曲が浮かんだりしたらジープの中で笛吹いてね。
由結:まぁ、素敵ですね!
一噌:「これ、このメロディーいいな」みたいな。でもホロだから外に聴こえちゃうんですよね。それで皆に振り向かれてね。
由結:皆さん驚かれたでしょうね。それから釣りなども沢山やられて。
一噌:釣りも、はい。ハマってます(笑)
由結:そうですか。本当にもう一噌先生のこの世界と言うのがあって、コンサートに行ってもそれが楽しめますし、CDも沢山出していらっしゃいますので、またのちほど、エンディングでもじっくりと聴かせて頂けると思っております。それでは先生、最後にリスナーのかたに向けて、メッセージを頂けるとありがたく思います。
一噌:そうですね。今だいぶ盛り上がってきましたけど、日本人が日本の音楽を全然知らない状態になっちゃっていますよね。だからどんどん日本は本当に素晴らしい音楽が沢山あって、しかも日本の音楽はジャンルがもの凄い多いんですよね。僕は能楽ですけど、”能楽・雅楽”地歌とか長唄とか小唄とか端唄、民謡、義太夫とか、江戸囃子とか。また琉球の音楽とか、民俗芸能も入れると凄い色んなジャンルがありまして。これだけこの小さな国でこれだけ色んなジャンルがある国はないんじゃないかなと思いますけど。でもやっぱり皆、マスコミで流れるのは西洋音楽だし、学校教育で習うのも西洋音楽になっちゃってね。それは明治から、まぁ致しかたないのですけど。だけどそれをもっと日本の音楽のこと皆知って頂きたいなと言うのはございますね。それは僕が頑張って発信していかなきゃいけないなと思っております。
由結:あー、そうですね。本当に大事なメッセージですね!世代を超えて素晴らしい音楽・文化と言うものに触れて頂きたいですよね。
一噌:はい。
由結:先生、素敵なメッセージありがとうございます。二週に渡りまして一噌幸弘先生にご登場頂きました。それではまた是非遊びにいらして頂きたいと思っております!
一噌:はい。また参ります。ありがとうございます。
由結:はい。どうもありがとうございました。
一噌:どうもありがとうございました。
プロフィール |
東京都練馬区出身。安土桃山時代より続く能楽一噌流笛方、故一噌幸政の長男として9歳の時に「鞍馬天狗」で初舞台。以後、「道成寺」「翁」等数々の大曲を披く。能楽師として能楽古典の第一線で活躍する一方、篠笛、自ら考案した田楽笛、リコーダー、角笛など和洋各種の笛のもつ可能性をひろげるべく演奏・作曲活動を行う。 1991年より能楽、自作曲、そしてクラシックの古典まで様々な楽曲をレパートリーに、自身の新しい解釈によるコンサート「ヲヒヤリ」を主宰するなど、能楽堂をはじめとする伝統的建造物や数々のホールにおいて、能楽古典や自作曲、西洋クラシック、ジャズ、即興等を、村治佳織、セシル・テイラーをはじめとする内外の様々な音楽家、交響楽団と競演し、他に類をみない和洋融合の音曲世界を創造している。また、2004年NHK紅白歌合戦では藤あや子「雪荒野」、2012年NHK歌謡コンサートでは石川さゆり「天城越え」の編曲を手掛け共演を行う。2005年「邦楽維新Collaboration」ではデーモン閣下と、「言の葉コンサート」では数年にわたり江守徹と共演するなど、歌手や俳優、舞踊家等、各界のアーティストとジャンルを超えた競演、メディアへの自作曲の提供など、その活躍はまさに縦横無尽。 ソリストとして参加した2011年読売日本交響楽団(指揮:下野竜也)との共演は第24回ミュージック・ペンクラブ音楽賞クラシック部門コンサート・パフォーマンスに選ばれており、また卓越した技量により新たな音楽の可能性を意欲的に切り開いてきた取り組みに対して、日本文化藝術財団より第二回「創造する伝統賞」を受賞。その研ぎ澄まされた一音が切り開く世界は日本の伝統音楽・西洋音楽といった古今東西のジャンルの壁を突き破り、普遍的で可能性に満ちた豊かな表現として世界中から注目を集めている。 |