高野陽介さん 日本画家「きらめきのタイミング」
目次
“日本画”とは?
由結:本日は東京渋谷セルリアンタワー東急ホテルにオープンしました、日本遺産情報センターよりお伝えしてまいります。
さあ、本日のゲストをご紹介いたします。日本画家 高野陽介さんです。よろしくお願いいたします。
高野:よろしくお願いします。
由結:高野陽介さんは東京生まれ。東京芸術大学絵画科日本画専攻をご卒業。国内外各地を積極的に取材され、その多様な画風や表現で話題になり、数多くの個展を開催され、高い評価を得られています。
まずは高野さんに「日本画とは何?」ということについてお伺いしたいと思います。
高野:はい。美術館などで日本画作品はたくさん見る機会があると思うんですが、日本画と洋画の違い、なかなか難しい。実は境目もあんまりなかったりもするんです。ただ、伝統技術、その日本画の技術という技法という観点で考えれば、この岩絵の具という、石を砕いて粉にしたものを使用するというところが特徴です。これはラピスを砕いて粉にしたものです。
由結:鮮やかで深みがあり、きらめくブルー!
高野:はい。この粉に膠ニカワ(動物の骨とか皮を煮込んで作ったコラーゲン)を混ぜて和紙の上に塗る…というのが、古来からの日本画の技法です。
画家を目指したきっかけ
由結:なるほど、よくわかりました。ところで、高野さんが画家を目指すきっかけになったという作品、人物などがあれば教えていただけますか。
高野:そうですね。生まれつき絵描きになろうという感じだったんです。ただ、「絵を仕事にしよう。その中でも日本画にしよう」というきっかけになったのは、高校時代。箱根の成川美術館に行って見た日本画がきっかけでしたね。その日本画を見て、この人がどこかで教えているならば、そこに行って学びたいなと。それが芸大の日本画だったんです。
由結:まあ、そうだったんですね。運命の出会いですね。
高野:ええ。そこから、絵の道の中でも日本画というところにフォーカスして進んでいったんですね。そのあと、それを仕事にする、画家という職業にするってなったのは、またそのあといろんな出会いがあったんです。
高野さんが取材に多くの時間をかける理由
由結:ああ、そうですか。まさに人と物との出会いによって今があるということなんですね。
高野さんは取材にとても多くの時間をかけられているということなんですが、どういうお考えからなんでしょうか。
高野:取材をしてほぼ1年が過ぎるんですけれど、取材で一番見るべきところというのは、師匠の受け売りなんですけど、“光”なんです。光を見る、“観光する”ということ。その初めて降り立った場所、初めて行った場所で感じる光っていうのは、その第1回の1回目しかないと。その光を自分の絵で表現する。それが1つのサイクルになってますね。
由結:その場所に初めて降り立ったときのその感覚。
高野:そうです。そこをとにかく大事にしているんです。
高野さんの作品“ローマの朝”
由結:高野さんの作品で、ローマの朝、素晴らしい作品がありますけれども、あの作品も1枚の絵から、光もそうですし、時間ですとか、空間というものが感じられて、もうその先に人々の声が聞こえるんじゃないだろうかってという感じがします。これは、どのような意図で作られているんでしょうか。
高野:あれはもう、まさにもうここを描きたいって、すぐに思った場所ですね。ローマで朝ホテルを出て、取材にこれから出かけよう、と。今日は長い一日になるなと思って出かけたんです。
そしたらホテルの目の前にあの階段があったんですよ!朝7時ぐらいでしたかね。朝日が奥から照らしていて、その先には教会があるんですね。そこへもう本当希望に向かって歩いて行くような、そういう情景が目の前に現れたんで、「もうここで描くしかない!」と。ホテルから出て道を渡ったその目の前、そこでずっとスケッチを描き始めて…。
由結:まあ。
高野:後々調べてみると、それは“ボルジア階段”という有名な階段で、観光の名所でもあったんですね。全然そんなの知らなくって。
由結:導かれたんですね、きっと。
高野:はい。確かにあの階段をのぼって行き先に教会があったら、それはそれはいい朝の礼拝になるだろうと。
作風やテーマを考えるときにひらめきが訪れる瞬間
由結:まさに、そういった感覚、感性が研ぎ澄まされているんですね。そのようなひらめきは、どのような瞬間に訪れるんでしょうか。
高野:取材をしてるときに、「ここは!」と思う。それをもう帰ってすぐ絵にしたいなということもあるんです。それと同時に、今まで過去に取材した風景を絵にすることもあります。まず下塗りの状態でたくさんの絵を同時進行で描き始めるんです。
由結:1枚の絵に専念するのかと思ったら…意外です。
高野:というのも、岩絵の具というのは、乾き待ちという時間がありまして、一枚の絵をずっとじっくりやってしまうと、乾かないうちに絵の具がその上に重なっていくと、全然きらめきが出ないんですね。そこで、将棋の多面打ちのような感じで、どんどんやっていくんです。その状態で何カ月間か製作が進むんですね。
その間、コンサートや舞台を見に行ったり、おいしい料理を食べに行って、そのときに、「あっ、この音楽、この導入部分の盛り上がる感じ!」例えば森の奥に進んでいくような、そういう探究、そういう風景が浮かぶんです。「これ絵になるな。今描いてる絵がこう料理できるな」っていうのがパッとひらめいたりするんです。
由結:なるほど。そうやって高野さんの現実と仮想空間をつなぐ絵画が出来上がっているんですね。
高野:そうですね。スケッチをして、そのまま絵にしてしまうと、「生の絵になってしまう」なんて、日本画の世界ではよく言うんです。取材をして、それを2カ月、3カ月寝かせて、よくよく観察して、小下図、大下図といろいろ下図を描いて、最後本画にしていく。その間、熟成させるような期間が必要だとよく言われるんです。
由結:熟成期間、ですか。
高野:そうですね。その間、どう生活するか…そこが重要になると思います。
“リモート”による個展を開催
由結:いや~生活が重要。奥深いお話です。ちなみに、これからの時代、リアル以外での新しい試みを考えていらっしゃるということなんですが。
高野:そうですね。作品を発表する場として、これまではギャラリーや画廊などで展示する期間がずっと長く続いていたと思います。でも、よくよく考えると、昔は洞窟の壁画に絵を描いてた時代もあれば、寺院が展示場所になっていた時代もあれば、どんどん変わっていくわけですよね。最終的に家に飾るというところは同じなんですけれど、今こういう状況下において、そういう転換期になってるのかな、と。ですから、僕もリアルの展示、画廊、ギャラリーでの展示は続けつつ、それを動画配信したり、VR空間でそれを世界同時に見ることができるようにしたり、そういうシステムをこれから作っていこうと考えています。
由結:なるほど。絵画とともに、その周りにある空間というものはとても大事な要素ですね。その新しい試みを初披露する機会があるんですよね。
高野:2020年10月24日・25日。まさにこの場所、日本遺産情報センター、ここで展示を開催します。これを展示開催と同時に撮影もして、YouTubeに上げたり、SNSに上げたりとか、そういう活動の第一回にしたいと思っています。そのあとには、2021年3月、神谷町のギャラリー樋口文庫にて3月6日~13日。国立の画廊岳での展示は、6月5日~12日で、これも同様にここで培ったVRの放送システムを使って、今後も同時に配信していこうと思っています。
由結:高野さんの素晴らしい作品というものをリアルやVRの世界でも見られるということですね。とても楽しみです。
高野:両方のバランスですね。そこを今、様々なアーティスト、歌手、俳優、みんなが模索してるところだと思うんですね。僕も僕なりに挑戦してみようと思っているところです。
今後の製作の目標
由結:最後に、高野さんの今後の製作の目標を教えていただけますか。
高野:この日本遺産情報センターは、日本遺産のいろんな素晴らしいストーリーをまとめているので、それを目標に取材に行って見ようかなと。その取材したものを作品にして、それをまた見た人が「そこに行ってみよう」と、そんなサイクルをぜひ展覧会をきっかけに出かけたりとか、展覧会を見に来たときに、行ったあそこがここ絵になってるなとか、そういう共感を持つような、そういう展覧会にしたいと思うので、ぜひ楽しみに来ていただきたいなと思っています。
由結:素晴らしいですね。日本遺産は、点だけではなく面でつなぐストーリーということですから、これからたくさん取材をなさって、それを表現していかれるのですね。ぜひ楽しみにしております。
本日はご出演いただきまして、ありがとうございました。
高野:ありがとうございました。
「水晶のきらめき高野陽介日本画展」個展開催スケジュール |
2020年10月24日(土)10月25日(日)11:00~18:00 2021年3月6日(土)〜3月13日(土)11:00~19:00 2021年6月5日(土)〜6月12日(土)11:00~18:00 |
高野陽介さんのプロフィール |
1978年 東京生まれ |