伊東潤さん 作家「人間発電所」
目次
伊東先生が作家になった理由
由結:さあ、それでは本日の素敵なゲストをご紹介致します。小説家の伊東潤先生です。よろしくお願い致します。本日はお忙しい中お越し頂きまして誠に有難うございます。
伊東:いえいえ。こちらこそお呼び頂いて有難うございます。
由結:早速なのですが、日本を代表する小説家として有名な伊東先生。独立するまでは外資系企業でお勤めで、コンサルタント業をなさっていらっしゃり、その後、小説家に転身されました。会社勤めなどの傍ら、歴史等を徹底的に調べられたということですが、昔から歴史がお好きだったのでしょうか。
伊東:いえいえ。もう全く違って、私は本当普通の子どもだったんです。大抵、作家の仲間から話を聞くと、子どもの頃からおそらく皆100%小説家になりたくて、物語が好きで本ばっかり読んでたって人ばっかりだったんです。ですが、僕の場合は全くそんなことなくて。世代的には司馬遼太郎とかは普通に読んでましたが、それ以外、物語作家になりたいとか、そういうことを思ったことはまったくないですね。多分作家ってイメージでいうと、子どもでも眼鏡かけて端っこで一人で本読んでる。仲間に加われないとか、近寄りがたいだとか、そんな感じじゃないですか。全然逆で、僕は仲間の中心で大騒ぎするタイプ(笑)。
由結:そうなんですね。ひときわ存在感のある子どもさんだったのでしょうね。
伊東:そうですね。若いころからウインドサーフィンをやってまして、それも本格的で、短いウェーブの板でやってたりとか、ソウルオリンピックの予選も出て7位だったりとか。
由結:まあ!すばらしいご活躍ですね。
伊東:まあそんな浮ついた人間がこうして歴史作家でございますなんてね(笑)。普通言えないんですけど、なんとなくそうなっちゃってますね。
由結:ウィンドサーフィンをはじめ、なにか始められたら突き詰めていくというか、そういうことは昔からお好きだったんでしょうか。
伊東:そうですね。本当に凝り性って部分はあったんで、なにか好きになると徹底的にやるっていうことは、なんていうんですかね。コンティニュティ…つまり、継続性ですかね。自分の持ち味としては、これが強いですね。
由結:なるほど。やはり継続は力なりということですね。
伊東:そう、継続は力なり。決めたことは諦めないですね。途中でやめたりとかしないですね。
由結:なるほど。出来るまでやり込むということなんですね。人生、いろんなことがおありだったと思うんですけれども、今に至る転機になったようなキッカケはありましたか。
伊東:そうですね。なにかドラマチックな話があればいいんですけど、特にそういうことはなくて、やはり自分自身が社会人、サラリーマンを続けていって、自分の適性っていうのは組織の中で発揮されるよりも自己完結の仕事をしたときのほうが発揮できるんじゃないかと気づいたんですよね。大体35歳ぐらいのときに、我々の世代っていうのは出世することが非常に価値観として重くて、みんな出世を目指しているわけですよね。課長になって部長になってみたいな。ところが僕自身は、そうじゃないのではないか。確かにリーダーシップはあるし、非常にアイデアも自分から積極的によく出すし、後輩からは好かれる。そういった人望もあったんですけど、それよりも僕は、自分自身が1から10まで自己完結でする仕事が向いてると思いました。こういうことに気づいてから、自己完結の仕事とはなにかっていうのを突き詰めていって、コンサルタントになった。だってコンサルタントになってもクライアントがいますから、完全な自己完結じゃないのですよね。
由結:確かに。
伊東:それを調べてくとやっぱり作家がかなり自己完結でできるなっていうのがわかって、作家になろうっていう感じになっていったんですね。
由結:へえ~それが理由だったんですね。
伊東:そうなんです。だから夢っていうか、作家が夢だったわけじゃないんですよね。なんとなくそうやって自分の適性を突き詰めていって作家になったって感じです。リスナーの方々も、もし疑問や、なんかうまくいかない。人生うまくいかないだったり、そういうふうに感じる方がいらっしゃったら、もう一回自分の適性というのをしっかり捉え直してもらうといいと思いますね。
由結:なるほど。何々になりたいというよりは、適性を見るということなんですね。
伊東:そうです。“何になりたい”じゃないんですよ。“自分に向いてる仕事は何か”なんです。
由結:分析する力っていうのは大事なんですね。
伊東:そうなんです。客観的に見れない。これが人間ってもんですけど、“自分自身っていうものをいかに客観的に見て、自分の道を歩んでいくか”これが非常に大事ですね。
由結:なるほど。今まで出会った方で影響を受けられた方などはいらっしゃるんでしょうか。
伊東:まあ、出会ってはいないけど、作家ではやはり司馬遼太郎先生とか、そういった多くのレジェンドと呼ばれている人たちの影響は受けてますね。彼らの築いたものっていうのは日本人の遺産であると思いますし、それを引き継いで、やはり歴史の面白さとか歴史の教訓というのを未来に伝えていかなければいけない。それが自分のミッションであるというふうに思ってます。
大人気!伊東潤のオンライン読書会
由結:先生は様々な読書会などの活動もなさってらっしゃいますけれども、ファンの方、たくさんいらっしゃいますよね。皆さん熱狂的な方々だと思うんですが、歴史好きの方も先生の作品を読むともう他は読めないとおっしゃるくらい、先生の作品は素晴らしいとのファンの方のお声が多数上がっています。コミュニティ活動、オンライン読書会などもなさってらっしゃるとお伺いしておりますが、それについてお聞かせ願います。
伊東:そうですね。これまでの作家っていうのは非常に不器用で、ただ書くことしかできなかったんですね。書いて編集にそれ渡して本にしてもらうという流れ。それしかできない人が多かったんですけど、これからの時代、ある意味マルチな才能がないと生き残れない時代になっています。これだけ出版点数が増え、作家の数も増えてくると、非常にそういった意味で、ただ単に本を書くだけでは本を売れないんですよ。ですから、私はコミュニティ活動を行って、コアなファンというのを増やしていく。読書会などを主なイベントとしてそういったものをやっていくわけですけど、それだけではなくて、しっかりメルマガというのを書いて、歴史の面白さを伝えていく。また、Voicyもやってるんですけど、Voicyで非常に短い時間で歴史のポイントみたいなものをお伝えしていくとか、そういった活動を活発に行ってます。
由結:とても魅力的なご活動ですね。ファンの方は、様々な方面から歴史についても深められるということですね。
伊東:そうですね。やはり、それも歴史っていう武器を持ってるからなんですね。普通の作家さんは歴史じゃないので、なかなかそれができないんですね。
由結:なるほど。そうですね。大人の教養としてもそうですし、皆さん、生きる人生の指針になさっているように思います。
伊東:その通りですね。やはり歴史から学び、自分の人生にいかしていく。そのためのツールが小説であり、また研究本であると思いますから。
由結:なるほど。今度は6月26日、この歴史の読書会があると思いますが、次回のテーマが『修羅の都』ですよね。こちらの頼朝のお話。北条政子のお話なんですが、皆さんまたファンの方は、すごく勉強もされて臨むんだろうと思うんですけれども…。
[※6月のオンライン読書会はすでに終了しました。伊東潤先生のオンライン読書会は定期的に開催されています。詳しくは、伊東潤先生の公式ホームページをご覧ください。]
伊東:いや、大して勉強してこないですね(笑)。
由結:そうですか(笑)。皆さんでもそれぞれディスカッションする…そんな時間もあるそうですね。
伊東:そうですね。僕の読書会の場合は、作品そのものの評価どうこうというよりも、歴史的なことを結構語り合うということが多いんですよね。例えばここで頼朝こういうことしたけどその是非はどうだったとか、もっとわかりやすく言えば、武田家滅亡したわけですけど、滅亡しないためにはどういう手を打つべきだったかとか、そういったことから結構歴史好きな人も満足します。実際に作品、例えば『覇王の神殿』であれば、人間関係、これが非常に蘇我馬子と推古天皇と聖徳太子、三人の人間関係が軸になってるわけですけど、そういったものがしっかり描けているか。その苦悩や葛藤といったものがそれぞれ描けてるかっていったところを評価する。そういったことを語り合うっていうことも重要ですよね。
作品『覇王の神殿』について
由結:なるほど。そうですね。作品『覇王の神殿』…この時代を先生が切り取るというのは珍しいことじゃないかと思うんですが、何故これを取り上げようとなさったんですか。
伊東:そうですね。やはり日本史を振り返ったときに、誰が日本の基礎を作ったのか。これを非常に最初に思ったんですね。調べていくと、どうも日本っていう国の形、こういうふうにしていこうって考えたのは、蘇我馬子じゃないかって結論に至ったんですね。つまり、もっと具体的に言うと、「仏教を軸にした律令国家にしていこう」と。もっと後にそういったものがはっきりしてくるんですけど、その最初のイメージみたいなものを持って、日本人のアイデンティティ、例えば当時は隋や唐とか朝鮮三国ありましたけど、それとは違う。「これは国家なんだ
っていうことをしっかり日本の民にも伝えていったっていうのは馬子が最初ではないかと。
由結:なるほど。日本の礎を作ったのが馬子だと、そういう見解なんですね。
伊東:そうですね。一番の礎だと思いますね。馬子が作ったものは。
由結:なるほど。馬子はすばらしい功績を残したのですね。
伊東:そうです。おっしゃる通りです。小説というのはやはりここにきて史実ではないんじゃないかっていうようなことも非常に多く言われるようになってきました。史実を小説家がゆがめているようなことを言われると思いますけど、決してそうではなくて、我々も史実に沿った中で面白い物語をいかに紡いでいくか。これに重点を置いてます。そうした中で、小説でまず入り口として読んでいただいて、それで興味があった方、興味を持った方、100人に1人でも参考文献読んでいただいて、歴史研究をするとか。そこから教訓を学んで自分の生活に活かしていくとか、そういう形の流れが作れればいいなというふうに思っております。
由結:ありがとうございます。素敵なメッセージをいただきました。これから歴史に携わる、触れるということがすごく楽しみになって参りました。このラジオもビジネスパーソンの方、たくさん聞いておりますので、ぜひ皆様の生活やビジネスに役立つようなお話もお聞かせ頂きたいです。
伊東:はい。
伊東先生が戦国時代を描く理由
由結:伊東先生はこれまで様々なたくさんのご著書を出してらっしゃるわけですけれども、メインはやはり戦国時代というようなイメージが強くあります。戦国時代を描いている理由というのはあるんでしょうか。
伊東:そうですね。やっぱり戦国時代から入ったっていうのは、戦国時代が極端に歴史の中では人気があるんですよ。やっぱりそういった意味で、最初は売ってやっぱり軌道に乗んなきゃ、乗せなきゃならないので、戦国時代中心に描いてきたということですよね。やっとそれが安定稼働してきたというか、自分自身のファンというのが増えてきましたので、それで好きなことができるようになったという。やはり12~3年かかりましたね。
由結:そうですか。長い道のりだったと思うのですが、振り返ってみていかがですか。
伊東:そうですね。戦国時代自体がやはりそれだけ面白かったんで、自分自身も書いてて楽しい部分ってありました。ただ、どんなビジネスをやるにしても同じだと思いますけど、チャレンジ精神を忘れたら駄目なんですよ。戦国時代に安住して戦国時代しか書かない作家もたくさんいます。それで商売そのものはいいんですよ。版元もそのほうが喜ぶんです。けれど、自分自身が作家となったからには、やっぱり新しい時代とか、極端な話、近現代のミステリーとかそういったものにもどんどん挑戦していく…と。その姿勢がやはりこれからの時代の作家には重要なのではないかなと思っています。
由結:なるほど…作家さんも挑戦する姿勢が大事なのですね。戦国時代というと、なんとなく荒々しいというか、弱い者を強い者が蹴落としていくようなそんな厳しいイメージがあるのですが、先生は戦国時代をどのように捉えていらっしゃいますか。
伊東:やはり戦国時代というと、ほとんどイコールの言葉で“下剋上”って言葉がありますけど、実力だけが物をいう時代。これが戦国時代だと思うんですね。これは秩序というものがほとんどなくて、力のあるものが制していくという時代。ある意味グローバリズムに毒されたというか、グローバリズムに支配された、現代社会と同じだと思います。本当、昭和のころより、また平成のころより、今、令和の時代のほうが実力のあるものがのし上がっていく時代。年功序列ではもう人はのし上がれない。そういう時代になってきたと思うので、いかに若いときから実力を磨いてくるか。これがこれからのビジネスパーソンにとって重要ではないかと思います。
由結:なるほど。現代も戦国の世と繋がっているところがたくさんあるということですね。
伊東:だんだん世界的にも政治状況も近づいてきました気がしますね。
自分の強みを意識する
由結:確かにそうですね。そういうものの見方をするととても面白いですね。伊東先生は作品を作るにあたってどんな工夫をしていらっしゃいますか。どういうふうにしたら、こんなに綿密な作品の数々が生まれるんだろう、と思いまして。一言でいうのは難しいかと思いますが…。
伊東:いや、一言でいけますよ。
由結:何でしょう。ぜひお願いします。
伊東:自分の強みを意識することが大切です。
由結:“自分の強みを意識する”
伊東:強みです。私も子どものころからいろんな方の本を読んできましたけど、この作品は当たりだけどこっちは外れだとか、そういったことってよくありますよね。
由結:はい。確かに。
伊東:ええ。それはなんでなんだろう。どうしてこんな面白いものが書ける人がこっちの作品は駄目なんだろうっていうことをずっとその原因を考えてきたんですけど、それはその作家が思いつきで題材に手を出してしまうからなんですね。自分の強みをいかせない題材に手をつけてしまうから、面白くならないんです。それに気づいたんです。とにかく自分の強みっていうのを常に意識して題材を選んでる。これが大事です。
由結:なるほど。
伊東:ただ世の中っていうのは、やっぱり、例えば物語を作るということだけでもう自分以上の作家っていうのはいっぱいいるわけですよ。例えば宮部みゆきさんとか、伊坂幸太郎さんとか、この人たちの才能にはかなわない。また、歴史研究では先生方、トップクラスの先生方、すごい人たちいっぱいいますよね。こういう人たちにはかなわない。しかし、例えば“ストーリーテリング力”と“歴史解釈力”。この二つの強みを融合して物語にしていく。この点において、僕にかなう人は今日本でいないです。そうやって考えると、人って絶対に自分にしかないものっていうのは作り出せるんですよ。
由結:わぁ~すばらしい。胸に響きました。真髄のお言葉をいただいたような気がします。
伊東:そうですね。2番じゃ駄目なんです。「1番になるには何と何を組み合わせればいいかっていうのを考えていくと、競争にも勝ち抜けます。
由結:なるほど。いくつかかけ合わせていくことが大事なんですね。
伊東:そうですね。3個でもいいし4個でもいいんですけど。
由結:そうすると、オリジナルができあがる…と。
伊東:そうです。僕の作品というのは、歴史小説は、“歴史解釈力”と“ストーリーテリング力”を軸にして、それに加えて“人間ドラマ”。これを加味したんです。それが三位一体となった形で出していってる。それで差別化が図れてるってことですね。
由結:「先生の作品はどれをとっても切れ味がある」…皆さんがおっしゃる所以はここにあったのですね。
伊東:そうですね。言っていただいております。有難いことに。
作品をつくるときの調査力
由結:この強みをいかした数々の作品の中で、例えば、『巨鯨の海』。私はクジラをとっているところ見たことありませんけれども、まるで本当に目の前に広がっているかのような、そんな錯覚に陥るような表現というか…。例えばどんなものを用いてどういう方法で採るのか、など綿密に下調べされてらっしゃるんだろうなと感じました。先生は、毎回の作品で調査なさるのですか。
伊東:そうですね。毎回ですね。もうこの調査力っていうのは僕のコアコンピタンスの一つで、とにかく文献を読み漁る。自分の中で消化して、それを10個のうちの10分の1ぐらいですけどね。それを物語のほうに生かしていくっていうやり方をしてます。ですから、とにかく難しいもの。それにチャレンジしていくっていうことにすごく意欲を感じるんですね。今までも、『巨鯨の海』は古式捕鯨っていうのを調べて書いたものですけど、そのほかにも僕は近現代物ってよく書いてるんです。例えば、『ライトマイファイア』という作品。全学連の運動っていうのは最近の若い人忘れてるけど、全学連の運動がいかに面白いエンタメ小説になるかっていうのを突き詰めたんです。日本人がどうしても忘れたい、例えば戦後のBC級戦犯の裁判の話、これをいかにエンタメにするかっていうのも突き詰めて書きました。これなんかはイギリスの裁判の記録、英語で読んだりとかしながら、それで作ってくっていう…やはり挑戦。これが大事だと思います。
由結:なるほど。先生の作品は、真実に迫りながらある一定のラインからはみ出ないように、ギリギリのところで線引きをされている気がしております。それは、想像だけではない、ご自身でここまでは…と、エビデンスに基づいた視点で描かれているのでしょうか。
伊東:できる限り。僕もいつも呼んでるのは、ラインボールとかエッジボールって呼んでるんですけど、ギリギリのところに打ち込むっていうことですね。だから、しっかりギリギリまで調べて、それで歴史解釈も、例えば本能寺の変って本当はこうだったんじゃないか。例えば信長を殺したいのだけど本当は、他の人を殺したいんじゃないかとか、そういう仮説を立てて、それで資料で固めていって、ギリギリのところをついていくという。史実0%は僕は歴史小説じゃないと思ってるんで、0.1%でもあれば読者は納得してくれます。
由結:なるほど。そうだったかもしれないということですよね。
伊東:そうかも、これありえるよなって。
由結:ただの物語ではないですよということですね。
伊東:そうです。架空の物語ではないですってことです。
由結:素晴らしいですね。
伊東:いやいや。こんだけやんないと…突き詰めて考えないと、やっぱり作家っていうのは生き残れないってことです。
由結:そういうことですね。大変勉強になりました。リスナーの方も、人生やビジネスで応用が利く非常にすばらしいお話をお聞かせ頂きました。有難うございます。
伊東:とんでもないです。
作品『琉球警察』について
由結:さて、先生、この『覇王の神殿』のこれが3月に出版された本ですけれども、こちら絶賛発売中ですが、先生からすると珍しい時代の背景のものだったと思うんですね。こちらと共に、また新しい本が出版されますね。こちらはいかがでしょうか。
伊東:こちらは7月15日に発売される『琉球警察』というタイトルの作品なんですね。全く『覇王の神殿』と違って、非常に現代に近い、昭和のちょうど戦後すぐの頃の話なんです。今、沖縄問題っていろいろ取りざたされてニュースにもなりますけど、非常に本土の人たちっていうのは注目度が低いわけです。僕は沖縄出身じゃないですが、ただそういった意味でいうと、沖縄がどんな目に遭ってきたか。戦争中もあれだけ多くの方がお亡くなりになり、また、戦後も土地収用問題っていうのがあって、米軍基地に田畑を取り上げられてしまった人たちがたくさんいる。こういった沖縄のずっと引きずってる問題というのをしっかり伝えていかなければならないと思ってたんですね。ところが、これがエンタメ小説にするのは非常に難しいんです。ただこれをいかにノンストップで読めるエンタメ小説にしていくかっていうのは、自分に課せられた課題だと思ってたんで、それをいろいろ苦労して書き上げた小説が『琉球警察』です。
[※『琉球警察』は好評発売中です。詳しくは伊東潤先生の公式ホームページをご覧ください]
由結:そうなのですね。先生、今回もたくさんの下調べをしたり、現地に行かれたりしたのですか。
伊東:そうですね。現地にも行きましたし、資料もできるだけ多くの資料を集めて書き上げました。
由結:凄いです。この本は沖縄のことについて書かれている箇所もたくさんあると思いますが、ほかと違う切り口ですと、どういう点がおありになりますか。
伊東:そうですね。ただ沖縄のこととか政治の問題ではなくて、公安警察の人間が主人公なんです。実際の琉球警察の初期から公安警察の公安っていうのを養成してたわけですけど、その若者が主人公で、沖縄を取り戻したい。そう思いながらも、逆に公安という役割で、そういった人民党の瀬長亀次郎とか、そういった人たちの活動をウォッチして報告しなければなりません。そういう矛盾や葛藤に悩む物語ですね。
由結:これはもう見逃せないですね。
伊東:そうですね。
由結:はい。本当に真実に迫るお話。先生もさっきおっしゃった通り、ギリギリのところまで突き詰めたご本だと思いますので、これを読んでより勉強していくと深まりますよね。
伊東:その通りですね。戦後沖縄問題、少しでも本土の方に理解していただきたい。それで100人に1人でも興味があれば参考文献読んでもらいたいという、そういう思いから書きました。
由結:有難うございます。楽しみにしております。先生、お話が尽きないんですけれども、お時間がそろそろ参りましたので、リスナーの方に向けてのメッセージがございましたら是非、教えて頂きたく思います。
伊東:はい。世の中、こうしたコロナ禍によって非常に苦しい生活を強いられてる方もいらっしゃると思います。誰もが苦しいときっていうのはありますけど、雨のあとは必ず晴れます。ですから、希望を失わずに明日を見て生きていって頂きたいと思っております。
由結:はい。有難うございました。胸に希望が湧いて参りました。2週に渡りまして、誠に有難うございました。
伊東:有難うございました。
作品「琉球警察」が7/15付日本経済新聞夕刊の書評「目利きが選ぶ三冊」で紹介されました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD123ZH0S1A710C2000000/
伊東潤さんのプロフィール |
作家 略歴 1960年、横浜市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。外資系企業に勤務後、経営コンサルタントを経て2007年、『武田家滅亡』(KADOKAWA)でデビュー。『国を蹴った男』(講談社)で「第34回吉川英治文学新人賞」を、『巨鯨の海』(光文社)で「第4回山田風太郎賞」を受賞。そのほか文学賞多数受賞。最新作に『覇王の神殿 日本を造った男・蘇我馬子』(潮出版)がある。 |