松平洋史子さん 一般社団法人日本おもてなしコンシェルジェ協会 会長「美しく、優しく、逞しく」
2019年12月26日放送 松平洋史子さん(1)
2020年1月2日放送 松平洋史子さん(2)
銀座ロイヤルサロン1週目
由結:それでは本日の素敵なゲストをご紹介致します。一般社団法人日本おもてなしコンシェルジュ協会会長、大日本茶道協会会長、広山流華道教授、茶懐石宗絃流師範、松平洋史子先生です。よろしくお願い致します。
松平:よろしくお願いします。
由結:はい。本日は松平先生をお招きして沢山お話を伺っていきたいと思っております。よろしくお願い致します。松平先生は1949年京都生まれ、水戸徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔でいらっしゃいます。また、松平家に代々伝わる生き方教本”松平法式”を受け継いでいらっしゃると言うことなのですが、”松平法式”と言うのは、そもそもはどうやってでき上がったものなのですか?
松平:そうですね。私の祖母・松平俊子が大正末期から終戦の所までとても社会事業を活躍していた女性なんですね。それで”昭和女子大”と言う今校長を、昭和女子大学の前身である”日本女子高等学院”の校長を務めた時におばあ様が校長として松平家に代々伝わる”松平家法式”と言うのをお作りになりました。
由結:様々な教えがありますが、具体的にはどのような教えなのですか。
松平:”松平法式”は本当にシンプルなんですね。まずは”美しい所作を身に付けること”、”その美しい心を持つこと”が基本にあるのです。それで”美しい所作と心”を持つと自然に気品が備わります。また松平家から受け継いだ作法は”如何に相手を気遣うか”と言うことです。そして「この型を学ぶだけではなく、その型から”心と想像力”を身に付けていくと言うもので、”心と想像力”が無ければおもてなしの型はできないですよ。」と言うふうに教わります。
由結:型の裏に”心”があると言うことなのですね。例えば、“お茶を飲む”という所作も、型の裏にある意味を学ぶことになるのでしょうか?
松平:はい。例えば私達は中学の時におばあ様の”陳情の間”と言うお部屋があって、お客様が応接間でお待ちになられます。その時にお手伝いさんがお茶を出します。私達は中学の時から横で立っています。何をしているかと言うと、「お客様にお茶を出して、お客様飲み終わる角度を見なさい」と。それで飲み終わった人、角度は上に上がりますよね。「その角度が上がったなと思うのを”心眼・心の眼”で感じなさい。そしてすぐに行ってはいけません。そこで上がったな、下ろしたな。1.2.3.で10数えます。数えてそれでも行ってはいけない。そこから”丹田呼吸”と言って、鼻からスーッと息を吸って、口と歯の間からスーッと出すと肩から力が抜けます。そしてそこで初めておもむろにお客様の所に行って「お差し替え如何ですか?」と言います。そうするとお客様は「あっ、丁度飲みたかったのに」。サービス・おもてなしと言うのは、ただ無くなったから注ぐのではなくて、「あっ、丁度飲みたかったのに」と言う”間合い”を持つと言うことを教わります。
由結:なるほど。その”間”が大事だと言うことなのですね。確かに飲みたい時に頂くお茶と言うのは凄く嬉しくて、心遣いを感じられますよね。
松平:そうなのです。
由結:その他、先生の御著書にも”松平家のお片付け”と言うご本がありますよね。ここにも沢山学びになることが書かれているのですけれども、この中に”空間、時間、物、お金、人づきあいの整理”についての心得があると言うふうに書かれているのですが、まずこの”空間”とはどんなことを指すのでしょうか?
松平:そうですね。私達は”物と自分”全てその間に空間があります。その空間をどういった美しい所作でそこのお道具に向かっていくか。どういった美しさでその人に向かっていくかと言うことがまず一番大事になると言う。そうするとお片付けと言うのはもちろん、物に対してもお片付け、人に対してもお片付け。ですから、物のお片付けだけではないんですね。それで「お片付けをする時にその空間を美しく見せるにはどうやったらいいかしら?」と言うと、そこの空間と言うのは”空気であり風”なのですね。風通しが良くないと綺麗にならない。だからよくお片付けの下手な人は「風通しが通らないお部屋でしょう?」と言うと「はい、そうです。」と皆さん仰るのだけど、「やはり私達の生きていく中に”物と自分”との間にこの空間を美しく見せる為に、”美しさ”自分の身だしなみを整える空間があるのよ」と言うのを教わるので、その空間を凄く大事にします。
由結:なるほど。総合的なのですね!それから、“時間”についてはいかがですか。
松平:そうですね。時間と言うのはやはりお片付けをする中に、お片付けの時間ありますよね。それで「お片付けをしなくちゃいけない」と言う時に、「お片付けが下手な人はお片付けをしてはいけない」と私は言うんですよ。それは何故かと言うと、まず自分の時間をちゃんと使っていない人が急に「あっ、お片付けしなくちゃ」と言ってお片付けをしても美しくならないんですね。何故かと言うと、一応片付けるけれども自分のやりたいこと・やらなくちゃいけないこと・終わったものも一緒になって片付けてしますでしょう?そうするともう一回「あれどこやったか?」と全部また出してしまうと言う、そういうお片付けの方法をするので、時間と言うのは必ず”一生涯お片付け”と言うんですよ。私達は生まれた時からぼやーッと生まれて何もないです。そこから色んなものが増えてきて、また色んな減らしてきて最後は何もいらないんですけども、そうやってお片付けと言うのは”一生涯のお片付け”と言う中で自分の時間をいつ使ってもいいから、自分がしっかりこれをやりたいと思って決めた時に初めて”要らないものと要るもの”がわけられるでしょうと言うふうに教わるのですね。それで時間が大切になります。
由結:奥深いですね。
松平:そうなんです。だから時間が決まらない時はそのままお片付けをしなくてもいいです。でも時間がちゃんと決まって自分が「こうなりたい」と思った時に。”それがその人の時間”と言うふうに教わります。
由結:確かに時間は有限ですから、そうやってキチッとお片付けをしながら整理整頓しながらと言うことなのですね。そして、”人”についてのお片付けについてもお伺いしたいのですが、人付き合いの整理整頓法と言うのがあるのでしょうか?
松平:”人付き合いの整理整頓”と言うのは、私松平家の中では「人を”心眼”で見なさい」と教わるんですね。それで「名刺で肩書きで見てはいけない」と言うふうに教わるんですね。なので、私達は名刺を頂いても肩書は見ないんですね。それでその人が自分にとって「あっ、この人なら自分の心がわかるな」と言うことを小さい時から磨かされます。それなので、「人との付き合いと言うのは、自分の肩書きで見る人間にはなってはいけないよ」と言うふうに。それで小さい時お屋敷の中で白い白髪の、白いお髭のかたが向こうからいらしたので、「あっ、この人は素晴らしい人なんだ。きっと偉い人なんだな」と思って、一番最高礼のお辞儀をしたわけですね。それでそこにおばあ様が帰ってらして。それでお屋敷と言うのは右行くと偉い人で、左行くとお手伝いさん・子ども達で中廊下繋がっていくのですけども、その時に夕方呼びに来られるんですね。「洋史子さんお呼びです」と。侍女がくるので、おばあ様のお部屋いくと、おばあ様の部屋に沢山のカステラがいっぱい積んであって、「あっ、カステラ今日頂ける!良いお辞儀をしたからだ」と思って行ったんです。そうすると座るとおばあ様が「今日貴方はお辞儀をしましたね」「はい、致しました」「あのかたはどなただと思っているのですか?」と言うので、子どもながら「多分あのかたは偉いかただと思います」と言ったら、「あのかたはお庭の棟梁の、植木屋さんの棟梁だ。そのかたがたまたまおトイレに、屋敷の中に入ってきたのに、そこに屋敷の中のお嬢さんがそんな深々としたお辞儀をしたら相手にどれだけのお辞儀をさせるのですか!?そういう気遣いのないお辞儀は駄目だ!」と言って「心眼が腐ってる!」と怒られて。
由結:まぁ!
松平:だから人と人の空気を自分で、もう小さい時から人を見る目を肥やしながら、それは人との区別と言うのを小さい時から見て、”心眼・心の眼”を養う。
由結:なるほど!素晴らしいお話の数々、
松平:はい、よろしくお願いします。
由結:はい。本日はありがとうございました。
松平:はい。ありがとうございました。
銀座ロイヤルサロン2週目
由結:さて、皆様。改めまして新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。きっと皆様にとって素晴らしい一年が始まったことと思います。さぁ本日もこの新年に相応しいゲストをお迎えしております。ご紹介致します。一般社団法人日本おもてなしコンシェルジュ協会会長、大日本茶道協会会長、広山流華道教授、茶懐石宗絃流師範、松平洋史子先生です。よろしくお願い致します。
松平:よろしくお願いします。
由結:はい。先生、新年第一回目なのですけれども。
松平:改めて、明けましておめでとうございます。
由結:おめでとうございます。先生の素敵な笑顔を拝見して何だか良い一年が始まったような気が致しますけれども。
松平:笑顔が一番私達の財産になるのですね。是非、新年早々笑顔で参りましょう!
由結:さて、先生はこの”おもてなしの文化”と言いますか、それに貢献すると言うことで一つ”I for You”と言うご活動をなさっていらっしゃいますよね。こちらについてお聞かせ頂いてよろしいですか?
松平:はい。”I for You・宙”と言うのは私がお茶箱を作った一つの名前から来ています。”I for You”と言うのは、”「私は貴方の為に何かできるかしら?」”と言うおもてなしと、”宙”と言うのはおばあ様が小さい時に「私達が物を探す時は空の更に宇宙を探して見えない所を探して探して探しくたびれた時に貴方の”丹田”。お腹の所に小宇宙があって、それが貴方の探しているものよ」と言うことで”I for You・宙”と言うふうに名前をつけた”歩くお茶室”となっています。
由結:”歩くお茶室”ですか!
松平:はい。普通はお茶箱で。お茶箱と言うのはお道具を入れた箱で、その箱はそのまま普通は使わないのですね。だけど私は「その箱を使って何かできないかな?そうだ!お茶室を作っちゃおう!」と思って、そこに掛け軸をつけてお花も入れて”五道の和”と言って、茶道がそこに表現できて、そこで書道もできて、お花もできて、そして講堂もあって、子ども達に海外にこの箱を持って行けば簡単にお点前ができるのよと言うものを作りました。
由結:素敵ですね。確かに”茶道”と一言に言われても海外のかたは中々理解しづらい点もあるでしょうが、お道具あるとわかりやすいですよね。
松平:そうなのです。もうお道具がそのまま表現してくれるので、子ども達は本当にお点前。ただ「美味しいお茶だけはたててね」と言うもので、そこだけ教えておくのですけど、あとはもう勝手に子ども達は海外へ持っていってお点前をしてくると「おー!凄い!ジャパン!」と言われて、皆から凄い喜ばれると言うふうには聞いています。
由結:これは持ち運びできる軽ささなのですね?
松平:はい。そうなのです。軽い箱を最初本当持ち運びができるのを考えた時に「”軽い”と言うのはじゃあ何がいいかな?」と色々考えたのですね。でもやはりその中に日本のものだから、日本の伝統工芸を使わなかったらいけないのではないかなと思って、”漆”と言うのを使って。漆だったらいいかなと思って漆を使いました。
由結:先ほどもお道具を見せて頂いたのですけども、凄く美しくて、ちょっと角度を変えたりするだけで、お掛け軸とかお花が置けるスペースがあったりして!
松平:そうなんですね。だからそれだけで、お机がただ一つポンッとあって、「これで準備いいんですか?」と皆さん仰るのです。「大丈夫です。机が一つあればいいんですよ」と言うことでそこでポンッと行ってその箱を机の上にポンッと乗せるんですね。そうすると、そこは立ってお点前をするんですね。このお点前と言うのは、お客様は椅子に座る。自分、私達はお点前する者はずっと最後まで立ってお点前をすると言うのが一つの形になっています。それは海外のお客様用におばあ様が昔”立礼”と言って、立ってお点前をするのを作ったので、それを今この箱は私も一緒にそれをやっています。
由結:なるほど。海外のかたの感想と言うか、どんな感じなのでしょうか?
松平:もう「ファンタスティック!」とか「素敵だね!」とか「本当に日本の文化だね!」と言うお声を本当に沢山聞くのですね。それで海外のかたもそうなる。でも「小学生の子どもにはどうかな、難しいのかな?」と思ったら、「おもちゃ箱みたい!」みたいなことを言ってね。子どものほうが速く覚えますね。
由結:きっと目をキラキラさせて臨むんでしょうね!
松平:そうなんです。次から次へとお道具が出てくる。「あっ、凄いんだね」と。それで「でもただお道具が出てくるだけじゃないのよ?お道具には意味があるのよ」と言うふうに教えるのですね。そうすると例えば茶筅になると、茶筅は茶筅なんだけども「茶筅にこれ意味があるのよ」と言うと、皆「えー?なんでー?」みたいに喜んで。「竹でできてるでしょう?竹でできて一生懸命貴方達がやるこのお茶筅でお茶をたてる。一生懸命自分の身を削って人の為に尽くすと言う想いやりの心と言うのがこの茶筅にはあるのよ」と言うと、子どもが「へー!こんな意味があるの?」みたいに喜んでくれるので、とても楽しいです。
由結:目に浮かぶようです!
松平:やはりお茶も意味を教える所から始まって、初めて日本の文化を伝えていく事になるので、そういう所を教えています。
由結:そうですよね。どうしてもご自宅に和室がないという住宅事情の中、簡単に、でも深い所まで伝わるとは、素晴らしいことですね。
松平:はい。そうなのです。
由結:先程からおばあ様と仰ってくださっているのですけれども、松平先生は徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔でいらっしゃいまして、そしてそのおばあ様が”松平俊子先生”と言うことで、昭和女子大学の校長時代にまとめた松平家に代々伝わる生き方教本”松平法式”と言うのを提唱していらっしゃったかたで、それを引き継いでいらっしゃると言うことですよね。それでその中からも先生がまたこの時代に合わせた形でお伝えになっていらっしゃるわけですね。
松平:そうですね、はい。物にはやはり”不易流行”と言う言葉がよくあるのですけども、古いものは古いもので良いものは良い。だけどもそのままじゃなくて更にいつも新しく進化していくものは進化していく。やはりその時代と共に変わっていくもの、時代と共に変わらないでいいもの。これをしっかり見極めて一つのものを作っていく。ただ新しいものをポンッと作るのではなくて、やはり昔の良いものをしっかりつくる。だからいくつになっても私達が新鮮なお野菜を食べて、そしてドレッシングをかける。それは文明で新しいものなの。だけども私達の中で大切なのは新鮮なお野菜を頂いたら文化と言うのは、ぬか漬けをぬか床に入れて一晩も二晩も寝かせてそのコクを味わうのが文化になるんですね。だからそのまま「はい」と言うものではなくて、そこに一時一つコクをつけて文化を伝えていく。これが”残心・心を残す”と言うことなのです。
由結:”残心”!
松平:松平家の中では一番大事な言葉になります。それで例えばお電話で、お電話を相手が切ったら電話を切ります。「残心しています」と言うかたが結構いるのですけど、それは松平家では残心ではないんですね。”「お電話を切ったな」と感じるのは自分の勝手な思い込み”と私達は言うのですね。自分が「相手が電話を切ったな」と思い込んだら、そこから残心はどうするかと言うと、1.2.と数えるのです。そうすると、1.2.が相手の為の時間になる。そうすると「あっ、言い忘れたことがあった」という場合にそこで受けられるんですね。自分が勝手に「あっ、お切りになったな、“ガチャン”」は駄目なんですね。それは”自分の思い込み”。それでもう一つそこに相手の為にお時間を使うのは1.2と言うお時間になります。それを”残心”と言います。
由結:なるほど。やはり“間”が大切なのですね。
松平:そうなのです。その”間”と言うのがとても大事。だからよく最近お買い物をしてずっと「ありがとうございました。」と言って、ずっと手を組みながらお客様が見えなくなるまでお見送りするのもありますよね。ああいうのはお見送り。見えるようにお見送りするのは松平家では言いません。”残心”とは言わないのです。”残心”と言うのは、お客様は送り出したら、そっと15㎝ぐらい開けておいて、耳で聞いて。それで音をトントントントントン「あっ、曲がったな」と思ったら静かにドアをパシッと閉める。それを”残心”と言うのです。だから見てやるのが今”残心”のようになっているのですけど、それではやっぱりお客様は気を遣うわけですよね。「あっ、まだ見てる。まだ見てる。」と言って振り返ることよくありませんか?
由結:えぇ。確かにあります。
松平:ね。なのでそういうことが、見ると言うのはそのかた達の勝手なことで。やはり本当にそのかたを思うのだったら静かに見えないように音を聞くと言うのが日本の文化にはあります。
由結:素敵ですね!まだまだお話を伺いたいのですが、お時間が来てしまいました。松平先生、また是非遊びにいらしてください。
松平:ありがとうございます。
プロフィール |
1949年京都生まれ。水戸徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔。 |