オートクチュールデザイナー 鈴木紀男さん 株式会社クチュールサロンNORIO 代表取締役「”カルダンのドレス、ERTE” 素晴らしき出逢いこそが今の私を育ててくれた。」
銀座ロイヤルサロン1週目
由結:さあ、それでは本日の素敵なゲストをご紹介致します。デザイナー鈴木紀男先生です。鈴木先生のプロフィール簡単にご紹介致します。先生は先日行われました高円宮女王殿下でいらした守谷絢子さんのご結婚披露ドレスを担当するなど、皇室・芸能界・政財界の方々の衣装を数多く手がけていらっしゃいます。どうぞよろしくお願い致します。
鈴木:よろしくお願いします。
由結:本日は大変お忙しい中お越し頂きました。素晴らしい鈴木紀男先生の世界がどのようにしてできてきたのかと言うことを伺っていきたいなと思っております。まず先生がこのオートクチュールの世界に入られたきっかけを伺ってもよろしいでしょうか?
鈴木:はい、そうですね。僕はいわき市に育ちました。4歳下の妹がおりましたので、小学校の頃からその妹の洋服を作っていました。あの頃お祭りとか色んな行事があった時に連れて歩くのに少しでも可愛い洋服を着せたいなと思いまして、それで作ったのがきっかけなんですね。
由結:その時はどんなお洋服をお作りになったのですか?
鈴木:ピンクで綿サッカーと言う、夏でしたからそれにノースリーブでフリルをつけて。それでまだ子供ですからミシン踏めませんので、全部手縫いで。それであの頃はサッカーと言う可愛い素材が流行ってましたので、それで全部手縫いで作って着せていました。
由結:まぁ!周りのかたも驚かれたんじゃないですか?
鈴木:そうですね。元々針を持つのが好きでしたし、だから人形を作ってあげたりとか妹にも。それだからといって別に男の子らしい遊びはしてたんですけれど、その傍ら、母が縫い物をしているところの脇で妹のを縫ってあげたりしていました。
由結:その頃から誰かのためにお洋服を作ってあげる喜びを感じてらっしゃったんでしょうか?
鈴木:そうですね。やはり喜びますので、新しい可愛いのを作ってあげると。それでどうしても喜ぶ妹の顔を見ると「もう一着また作ってあげようかな?」とか「今度こういうふうにしてあげようかな?」とかそういうふうなもの、やはり自分では興味がありましたからね。
由結:なるほど。そして高校生になると、文化服装学院の教科書などをお読みになっていたとか?
鈴木:そうですね。進学コースにおりましたけれども「どうしようかな?」と。美大系がいいか、服飾の学院のほうがいいか迷ったんですけど、やはり服作りが好きでしたからね。「じゃあ服飾学院に入ってみようかしら」と。それにはその学校の講座を取り寄せてみようと言うことで。そして講座を取り寄せて、高校生ですからまだわからないところも結構ありますしね。いくら好きだと言っても。ですから隣近所の洋裁の分かる方達、奥様方に聞いて、「こっちの奥様はこういうふうに習ったわよ」と「こちらの奥様はこういう方法で習ったわよ」と。「じゃあ自分はどうすればいいか」と言うようなことを自分で体験してみて、そして「こういう方法がいいんじゃないかな?」と言うようなことを、その頃からやはり”物を考える・物を作る”のを、そういう考えかたで物を作ってましたので、高校時代にもう既にちょっと大人から頼まれた物なんかは作ってましたけどね。
由結:自分の意思で考えると言うことをなさっていらしたのですね。そして、実際に文化服装学院に入られたわけですよね。
鈴木:そうですね。丁度男子学生がその当時は入れることになりましたので、文化服装学院は。ですからそういう意味で一応基本・基礎から習得するために学校に入りました。まだまだ男子学生は少なかったですから、2年目にしてデザイン科に進学しまして、デザインコンテストがあって、それでパリ行きのチャンスを頂いたと言うか。
由結:はー!学校に入って2年目でその切符を手にしたと言うことですね!”遠藤賞”を受賞なさって。
鈴木:そうですね。学院が丁度40周年記念と言うイベントで、プロには”並木先生”と言って先代の学長の名前での賞が贈られました。僕は”遠藤賞”という、その次の学長の名前の賞。アマチュアに贈られる”遠藤賞”を頂きまして。
由結:そしてパリに渡ったと…!なんとあの”ピエールカルダンのアトリエ”に入ることになったわけですね。
鈴木:そうですね。学生時代に丁度、文化の時にピエールカルダンがモデルを10何人連れて、パリのコレクションをそのまま日本へ持ってきて、そして学院の講堂で発表しました。その時は凄いカルチャーショックで「いやぁ、この世にこんなに美しいドレスがあるんだろうか・・・!」と凄く感動しまして、何が何でもカルダンのアトリエに入って勉強したいと思い、それでパリに渡りました。
由結:きっとそこでも色んな出会いがあったのでしょうね。
鈴木:そうですね。その時に丁度モデルも、日本人の松本弘子と言うカルダンが初めて認めたモデルがハウスマヌカンになっていた頃でした。ですから、そういう意味ではとても楽しいパリ生活。まぁ大変さもありましたけどね。コレクションの度に、カルダンのコレクションは1回に300点作りますから。
由結:まぁ!そうなんですか!
鈴木:年2回で。ですから600点でしょう?今は考えられないほど、意欲的な”オートクチュール全盛時代”と言う時代でしたからね。
由結:その時代に日本人が活躍すると言うのは珍しいことだったのでは?
鈴木:そうですね。はい。その頃はまだ日本人でクチュールに入ってる方がほとんどいなくて、そのあと先輩達のあとをついで、次に後輩達がどんどんパリへ来ましたけれどもね。
由結:なるほど。そしてそのあとにアンドレ・クレージュでもいらっしゃったんですよね?
鈴木:はい。そうですね。あのカルダンの凄いエレガントでフェミニンな世界から、クレージュの構築的なカジュアルでスポーティブな、ああいう一つの感性・ああいう素材感とか、ああいう感性をちょっとまだ勉強してみたいなと言いました。
由結:なるほど。
鈴木:そして仲間がクレージュに一人おりましたので、「一度見てみたら?」と言われて、それでアトリエに入りました。
由結:そうなんですね。今目の前に先生のこの御本があります。素晴らしいお洋服の数々です。先生のお洋服と言うのは女性が女性らしく振舞える…気品があり、エレガントですが、先生は制作するにあたってどんな信念をお持ちなのでしょうか。
鈴木:そうですね。基本的にはやはり”エレガントで、そして凄く女らしくフェミニンで、そして品良く”…そういう服作りをしたいと言うのが僕のポリシーかしらね。
由結:この中にアールデコの巨匠と言われている方の作品がエルテですね。これは先生、エルテの作品をそのまま実際にモデルさんが着て再現しているんですね?
鈴木:そうなんですよ。エルテとの出会いは、僕がパリへ毎年行っていた時、ウィンドウでエルテの本を見たんです。素晴らしいイラストレーターのエルテの作品を見て、「どうしても会いたい」とエルテの知り合いであった友人に伝えて。そしたら友人の紹介でお会いできましたので、「そのエルテのエスプリを私なりにどうしても作品にしてみたいと言う希望を言いましたらば、彼が気持ちよく20点ほどデッサンしてくださいましたので、それを作品にしまして、自分のコレクションと同時に”エルテの世界”と言う形でエルテの作品を発表しました。
由結:周りの評判はいかがでしたか?
鈴木:いやー、もうそれは皆さん感動していました。エルテを日本に呼べるなんて言うのは素晴らしいことでしたし、イラストの個展もやって頂きましたし。
由結:先生は、きっと素晴らしい出会いや、ご自身がこうありたいと思うものを引き寄せる力がおありなんですね!
鈴木:どうでしょうか(笑)。そういうものを願いますと、何か叶うものじゃありません?何か。だからそういう希望は常に持っておりますね。
由結:素敵ですね。エルテ氏も日本にいらっしゃって、きっとご自身の作品が実際のショーで使われていると言うのを見て、喜ばれたと思いますが?
鈴木:えぇ、「自分がイラストしたものがこのような素晴らしい作品になったのか!」と言って凄く喜んで頂きました。
由結:20周年と30周年のときの写真集。素晴らしい作品の数々が掲載されているのですが、こちらを見たいなと言う方はどうすればよろしいんでしょうか?
鈴木:そうですね、サロンのほうに連絡くだされば、まだありますので、どうぞご連絡くださいませ。
由結:はい。わかりました。では、その時には”鈴木紀男”で検索をして、そして麻布十番のサロンのホームページを見ればよろしいでしょうか? お洋服のご相談も、”銀座ロイヤルサロンを見た(聴いた)”と言って頂ければ特別にご案内頂けるのですね。
鈴木:そうでございます。
由結:それでは先生、お話が尽きないのですが、リスナーの方に向けてメッセージがありましたら是非お願いしたいと思っております。
鈴木:そうですね。お洒落に対してはちょっとしたスカーフ一つでも、アクセサリー一つでも何でも冒険してみると言うことが大事じゃないかなと思うんですね。常に前向きに、そしてちょっとしたアイディアでも取り入れて自分を少しでも変えていこうと言う、そういう気持ちがあると尚一層お洒落になるんじゃないかなと思います。
由結:素敵なメッセージ有難うございます。もう一つ女性がより美しくなる為のヒントを頂いてよろしいでしょうか?
鈴木:そうですね。あまり自分に「この色は似合わない」とか「こういう形は自分が綺麗に見えないんじゃないか」とかと言うことじゃなく、何でもトライする。試してみる。色ひとつとってみても、全身、もしそうでなければ一部分ブラウスの部分とか、スカーフ一枚でも自分が苦手だった色をちょっとそこに着こなして一つのアクセントとして、お召し頂けると尚何か新しい自分のイメージができあがるんじゃないかなと思います。
由結:ありがとうございます。是非先生には来週もご出演頂きまして、このお話の続きを伺っていきたいと思います。
鈴木:ありがとうございました。
銀座ロイヤルサロン2週目
由結:さあ、それでは新年明けての第一回目のゲストをご紹介致します。デザイナーの鈴木紀男先生です。よろしくお願い致します。
鈴木:よろしくお願いします。
由結:はい。先生はたくさんの政財界、皇室の方々等のドレスから衣装を手掛けてらっしゃると言うことなのですが、先だって昨年は元皇族でいらっしゃいます、守谷絢子さんのご結婚披露の衣装・ドレスを手掛けられましたが、その時はいかがでしたか?
鈴木:そうですね。絢子女王殿下の時は、丁度幼い頃からずっとお付き合いがありましたので、「お嫁に行く時にはどうしても紀男先生のお洋服で私は行きたいわ」と言う、そういう話がありました。お姉さまの典子様が結婚なさった時もそのドレスを見て「私もお姉様以上に可愛くね」なんて、そのように脇で仰られたので「わかりました」と「尚以上可愛く御作りしますね」と言うそういうお話からご縁が決まりましたので。
由結:そうでしたか。素敵なピンクのドレスだったんですけれども、あれは生地が元々あったそうですね?
鈴木:そうなんですね。守谷さんのお母様がボランティアで、何か東南アジアでそういう生地も扱ってたらしくて、それで土産に3点ほど色違いでくださった、その中の1点が「あれ絢子様にぴったりじゃないかしら?」と言うことで「できれば是非この素材を使って頂いてデザインして頂けない?」と言うお話から「じゃあ上に乗せるレースはフランスで探してきましょう」と言う形で。それがデザインのスタートだったんですけどね。
由結:例えば、その生地を、手に取った瞬間にイメージが浮かんだりするものなのですか?
鈴木:そうですね。はい。そのピンクの生地を持ってパリ行きまして、そしてサンプルの中から選んだ時に「あっ、このイメージで」モチーフがとっても可愛いオレンジのブロッサムの花でしたので、「ぴったりかな」と言うことで「これならこういうイメージがいいかしら?」と言うことで3点ほど一つのデザイン画を書きまして、そして絢子様と妃殿下にお選び頂いて、そして作品になったわけなのですけれどもね。
由結:他のお客様も本当にたくさんの方々いらっしゃると思うのですが、そういう時にもその方が持ってみえた布であったり、あるいはそのかたの雰囲気であったり、どういうところからイメージしてお作りになるのですか?
鈴木:そうですね。芸能人の方なんかはコンサートがありますよね。由紀さおりさんとか。やはりコンサートの自分のイメージ「今回のコンサートはこういうイメージでやりたい」と言う、そういうイメージをくださいますし、あと歌のメニューが決まりましたら一部と二部でどういうふうに・どういう衣装で・どういうふうな色合いで行くとか、そういう物もちょっと打ち合わせをしまして、そしてそれから素材的なものを僕が一つの提案をして、デザインも提案して、そして二人でコミュニケーションして、そして大体決めていくと言う…。またステージでの動きなども考えますしね。
由結:例えば、美川憲一さんの御衣裳も手掛けてらっしゃるそうですが?
鈴木:そうですね。演歌は御着物とか多いですけれども、シャンソンを歌う時には僕の衣装で歌って頂いております。
由結:そして、お名前を出すとキリがないないのですが、中島みゆきさんもですよね?
鈴木:そうですね。夜会とか野外コンサートでやはり彼女も中々とっても色んな意味でよくわかってらっしゃるかたですので。ですから、彼女の場合もある程度、夜会なんか台本ができて、そして台本を読まして頂いて、それから打ち合わせでコミュニケーションして、そしてこの素材集めをしたりデッサンをしたりして、打ち合わせをしていくと言う…。
由結:できあがっていく過程のエピソードはありますか?
鈴木:みゆきさんからのお話ですけど、写真一枚ぽっと、犬のポインター猟犬ですか?「これで衣装考えてね」と言われて、僕もう何十年この業界をやってますけれども、「犬の写真でこれでデザインしてくれ」と言うのは…。でも、みゆきさんも「ごめんなさいね、こういうテーマ上げて」なんて仰られましたけど、それをイメージにぬいぐるみじゃなく、それが一つの洋服として美しくそのイメージがあがるように考えましたけど。
鈴木:そのあと猫もありました(笑)。
由結:ユニークですね(笑)。そういった一つのモチーフからどんどん発想していかれると言うことですよね。一瞬にしてイメージが湧き上がるのか、それとも、何日もかけて湧き上がるんですか?
鈴木:一応その台本を読んで動きとか、そういうものを考慮しながら考えながら、「じゃあこういう素材でこういうふうにするときっと猫に見えるかしら?」とか「犬に見えるかしら?」とか「動いても、そういう表情が出るかしら?」とか、と言う素材選びから考えていきますよね、デッサンを。
由結:先生はパリで修行と言いますか、お仕事なさっていた時代からも布地を取るのがすごく速くていらっしゃると伺いましたが?
鈴木:そうですね。意外に好き嫌いがはっきりしてますので、素材もすごくエレガントな。逆に言えば難しい素材なんですけれど、ドレープが出るような、そういう流れるような動きのある、そういう素材が、レースとか薄いジョーゼットとかそういうものが好きですからね。でもムッシュカルダンがすごく”布の魔術師”と言われたくらいに、すごい素材を大事にし、素材に惚れ込んだ素晴らしいデザイナーですのでね。そのエスプリークを私が吸収してきたせいかしらね?どちらかと言うとやはりドレスが自分では得意かななんて思うんですけどね。
由結:そうですかそういった素晴らしい技術を、今は学生様に向けてもお伝えになられていらっしゃいますよね。”文化服装学園の客員教授”でいらっしゃいますが、お授業をなさっていてお感じになることはありますか?
鈴木:そうですね。オートクチュール科と言うことで少しでも自分が経験してきたものを、やはり学生に教えていきたいと言うことで、ある程度グループ制作で学生には扱えられな
い・求められないような素材ですね。シルクベルベットとか、シルククレープとか、またはケミカルレースとか。そういうものを一つの教材としてデザイン・発想をして欲しいと言うことを学生に提案しまして、それでデザインさせると言うこと。
由結:今も学生さんの卒業制作などのアドバイスなさってると言うことなのですが?
鈴木:はい。やはり卒業して「こういう素材は見たこともない、触ったこともない」では、オートクチュール科の学生として、それはマイナスになりますからね。少しでも自分が扱っているような素材を学生に見せて、実際に扱って縫ってみて、そしてデザインしてみてと言うそういう感性を教えたいなと思って今クラスを持っております。
由結:そうですか。優れたデザイナーになる為にはどうしたら良いのでしょうか?
鈴木:そうですね。やはり”全てのものにハングリーであって欲しい”、”興味を持って欲しい”もちろんファッション業界ですから、素材とかテクニックとかそういうものもありますけれども、自分もそういうものを身につけて、そして体験していくと言うことも大事じゃないかなと思うんですね。
由結:なるほど。体験が大事と言うことなのですね。未来の学生様・デザイナーを目指しているかたに向けて、何かアドバイス・メッセージをさらに頂きたいのですが?
鈴木:そうですね。やはり自分がやりたいと言うことは、必ず叶う時が来るんじゃないかと思うので”努力”ですね。意外にファッション業界と言うのは、目に見えないところは結構地味な仕事でもありますので、技術的なことを高めたり、一つの目標を決めて進むと言うことも大事じゃないかなと思うんですね。
由結:ありがとうございます!素敵なメッセージを頂きました。是非リスナーの皆様もご関心持たれた方は”鈴木紀男”で検索して頂きますと、ホームページなどでも情報を取ることができますのでご覧になってみてください。それでは鈴木先生、2週にわたりまして、本当にありがとうございました。
鈴木:こちらこそありがとうございました。
プロフィール |
1943年いわき市生まれ。 |