本岩孝之さん クラシック歌手「人とのつながりを響きに変える!」
銀座ロイヤルサロン1週目
目次
奇跡の4オクターブ
由結:さあ、それでは本日の素敵なゲストをご紹介いたします。クラシック歌手、本岩孝之さんです。よろしくお願いいたします。
本岩:よろしくお願いします。
由結:本日は特別編ということで、声解析の専門家であるユウキアユミワールドアカデミー学長の稲井英人さんと共にお送りしたいと思います。よろしくお願いいたします。
稲井:よろしくお願いします。
由結:本岩さんはバスの音域からバリトン、テノール、カウンターテナーまで、なんと4オクターブの音域を使いこなすというクラシック歌手でいらっしゃるんですね。
稲井:奇跡ですね。羨ましくてしかたないです。
由結:4オクターブにわたる音域を使いこなせる方はなかなかいらっしゃらないですよね。
本岩:そうですね。僕自身もどのパートでいったらいいかという悩みの種だったんです。
稲井:音域が広すぎて?
本岩:はい。どの声でもいけちゃうので、先生によって好みが違うので、「テノールでいける」とか「バスでいける」とか「カウンターテナーのほうがいい」とか。それから、「全部できるということにすれば?」と言われて、音楽事務所の人が「奇跡の4オクターブ」と呼ぶようにしてくださって、こうなりました。
由結:いや~贅沢な悩みですね。
稲井:ご自身では一番好きなパートというのはあるんですか。
本岩:あります。好きなパートはテノールです。
稲井:一番自然に歌えるパートなんですか。
本岩:いえ、自然に歌えないですね。バリトンとカウンターテナーは完ぺきでテクニック的にはもう納得しているんですけど、テノールはまだ納得していないので、テノールの最高の声を出したくて必死で毎日練習しています。
由結:へえ、そういうものなんですね。
稲井:伸び盛りなんですね。
本岩:今まさに伸び盛りで、それを楽しんでいるところです。
由結:あえてその部分に挑戦していくということなんですね。
本岩:はい。声の質がわりと細いんです。イタリア人から見ると、その細さだとテノールみたいなんですね。バリトンとかバスとなると、もっと太い声の人が多いんですよ。声は低いんですけど、僕の細い声の質で低い音を出してもあんまり低く聞こえないんです。
稲井:なるほど。
由結:そういうものなのですね。奥が深いですね。 本岩:そうですね。奥が深いです。
幼少期から広かった音域
由結:幼少期からなにかそういう兆しがあったのでしょうか。
本岩:はい。元々音域が広かったみたいで、いろんな音が出たんです。元々は少年少女合唱団出身で、その合唱団では最初はアルトで歌い始めてメゾソプラノに上がり、最後はソプラノで歌ってたんです。変声してからはテノールで歌っていたんですが、声が低いということがだんだんとわかってきて、声の質が高そうに聞こえるからテノールで歌っていただけだったんです。わりと声が軽いので。
稲井:意外な感じがします。やっぱり音域を変えて歌うときはなにかご自分の体の中で変換が起きるんですか。
本岩:そうなんですかね。感覚的で、あまり考えていないですね。
稲井:そのポジションになったらその声が出る?
本岩:そうだと思います。感覚的にやっているので、あまり考えてないです。
稲井:アーティストらしい言葉でいいですね。
由結:本岩さん、自然体で素敵ですね。
稲井:人にお教えしたりとかしてるんですか。 本岩:今まで自ら進んではあんまりやってなかったですね。頼まれて教えていたっていう感じです。募集はしてなかったんですが、最近はしたりもしています。
苦労した変声期
由結:なるほど。そんな本岩さんなんですけれども、お姉さまもやはり同じ歌手をしてらっしゃったそうですね?
本岩:はい。声楽家です。
由結:その影響というのはおありだったんですか。
本岩:はい。子どものころから二人で一緒に歌っていました。それから姉が東京芸術大学に先に入学していたので、高校生ぐらいのときから、もう東京にレッスン受けに来ていたので、姉からはいろんな影響を受けました。高校生のときには、姉がソプラノのオペラ・アリアなどを歌っていたので、僕もそれを真似して、ソプラノのオペラ・アリアを結構歌っていたんです。
由結:高校生にして素晴らしいですね。
本岩:高校生のときはまだ声が高かったんです。
稲井:高校でも高い声が出たんですね。
本岩:出たんです。どうして出たのかわからないんですが。
稲井:すごい。
由結:なるほど。変声期のときに少し苦労なさというふうにお聞きしたんですけれども。
本岩:はい。元々歌が好きなので、僕にとって、歌えることがとても喜びなんですよね。でも、変声期になると突然声が出なくなるじゃないですか。コントロールも全然できないので、1年間ぐらい、つらいというか悲しかった感情を今でも覚えてます。元々持っていた声が失われたので、それも嫌でしたね。
由結:そうですか。つらかったんですね。
稲井:それで1年ぐらいでどのように元に戻っていったんですか。自然と?
本岩:いや、僕は中学時代はサッカー部で運動ばっかりしてたんですけど、コーラス部の先生から「コンクールのときだけ歌って」と頼まれて歌いにいって、その中で歌っている間に少しずつわかるようになったって感じです。変声すると歌い方もわからないので、男性がまた新たな声で歌うというのは、コントロールが難しいですよね。
稲井:野球選手がバッティングフォーム変えるようなものですよね。
本岩:そうですね。変声っていうのは、身体つきや声つき、そういうものが丸ごと変わってしまうので、男性にとってはとても大きいことだと思います。
体が楽器の声楽
由結:練習はどのぐらいなさるんですか。
本岩:声楽は体が楽器なので、普通の楽器と比べたらたくさんはできないんです。毎日短くて1時間から2時間ぐらいをずっと続けてる感じですね。
由結:ご自身の努力でここまで培ってきたという感じですか。
本岩:そうですね。僕は天才型じゃないので、そうやって毎日の訓練の中で積み上げてきてる感じですね。
稲井:自分で今日は「響いてるぞ、あれ違うぞ」っていう、バロメーターの基準ってあるんですか。
本岩:声を出してみるまでわからないですね。毎日コンディションが違うので、なかなかいいポジションで毎日歌い続けるのは難しいのですが、それが声楽の醍醐味でもありますね。楽器は楽器職人がいて完ぺきな状態まで作ってくれるじゃないですか。それを何百万、何千万、何憶ってかけたお金で買い取って、そして演奏する技術を披露する美学って感じですけど、声楽はその楽器づくりが大事なんです。その楽器がなかなかいいところまでいくのに時間もかかるしお金もかかるので、とくにイタリアなんかでは元々それがある程度出来上がっている人が声楽を始めるということのほうが多いです。
由結:なるほど。
稲井:出来上がるっていうのは具体的にどういうことですか。
本岩:出来上がるっていうのは…つまり、普段のしゃべっている声など日常生活を送ってきて積み上げたものがたまたまよかった、ということです。そういう人が声楽に進められることが多いですよね。やりたいからではなくて。
稲井:なるほど。そういう方は声が安定してる方が多いですからね。
本岩:そういう人はやっぱり元々持ってるものが素晴らしいので、出発地点が違いますよね。元々山を駆け回ってた人が足が速いことが多いように、声楽もそういうことは多いと思います。
稲井:環境ですかね。
本岩:はい。多いと思います。
由結:本岩さんの場合はその点はどうだったんですか。
本岩:僕はあんまり才能には恵まれてないと思います。そんなに声も大きくなかったし。ただ歌が好きだったっていう気持ちは人よりは強かったので、そこが僕は違うかなと思います。でも10代ぐらいのときには、同じ世代でもっと僕なんかより素晴らしい声の人はたくさんいたし、素晴らしい才能がたくさんあったと思いますね。それは伸ばすような、西洋音楽を土台にしたような文化が日本にはあまりないので、だからいつの間にかみんなどこかに行っちゃうんです。
稲井:誰が見出してくれて、ポッとつまみ上げてくれるかは大事ですよね。
本岩:そうかもしれません。たまたまのご縁があるかどうか。だから僕が歌い続けてるっていうのも不思議で、元々素晴らしい才能持ってた人たちの才能がもっと活かされるような国になるといいなと望んでいます。それだけ素晴らしい人たちを見てきたんです。僕は歌が好きなので、日本でそういう素晴らしいものがたくさん存在するといいなと思ってるんですよ。
イタリアで浴びた大喝采
由結:イタリアで歌われたときも大喝采を浴びたというふうにお聞きしているんですが。
本岩:はい。ありがたいことですね。イタリアの文化を日本人が歌ってるから余計に喜んでくれたっていうのもあると思います。本場の方たちなので、オペラ・アリアを歌ったりするとすごく喜ばれましたね。
稲井:耳が肥えてる人たちじゃないですか。
本岩:そうですね。それは嬉しかったですね。イタリアでついたパリデ・ヴェントゥーリ先生がコンサートをセッティングしてくださいました。
先生は、僕をご紹介くださったイタリアのオペラ歌手ジュゼッペ•ジャコミーニさんに「君を紹介されたことを感謝するってジャコミーニに伝えとくよ」って仰ってくださって、それがとても嬉しかったです。
稲井:素晴らしいですね。
由結:なかなかいただけない言葉ですよね。
本岩:本当にそうですね。そのときはさり気なく聞いてたんですけど、ヴェントゥーリ先生がもう亡くなって、今となっては貴重な言葉だったなと思いますね。サインしてもらえばよかったなと思います。「その言葉を書いてください」って(笑)。
一同:(笑)。
由結:そうですよね。
稲井:録音しておいてもらう。
由結:ちなみにそれはどのぐらい前のお話なんですか。
本岩:もう20年以上前です。
運命に導かれた転機
由結:本岩さんの人生の転機はいつ頃ですか。
本岩:転機はいろいろあるんですけど、一番大きい転機は、そのとき教師をやっていたんですけど、僕の先生に「重い物を持て」と言われて、教職を辞めてトラックの運転手をやり始めたことがあるんです。重い物を持つために。そのトラックの運転手をやっていたときに、1週間の間に事故に遭ったり車を盗まれたりして、突然トラックの運転手を辞めさせられたことがありました。
由結:え!?本岩さんがトラックの運転手をなさったことがあるということなんですね?
本岩:そうなんです。
由結:驚きました。いろんなご経験がおありなのですね。
本岩:そうそう。「重い物を持て」って言われたんで、その重い物を持つためにやりました。
由結:それはすごい!
稲井:素直ですね(笑)。
由結:全て経験だからと、自ら買って出たんですね。
本岩:重い物を一日中持っていられるような仕事をしちゃえば、お金を稼ぎながら重い物を持てるなと思ったんです。しかもトラックの運転手をすると倉庫に戻ってくるので、誰よりも早くみんな配って倉庫に戻ってくれば、誰もいない広い場所で歌が歌えるんですよ。だから夜中1時2時に倉庫に帰ってきて、そこで思いきり歌を歌って練習するっていう生活を3年ぐらいやっていたんです。
由結:まあ!その目的もあったわけですね。
稲井:そして、重い物を持つときに足腰グッと踏ん張るから、そのときに力が!
本岩:そうです。フンッて持つじゃないですか。その呼吸法を身につけろってことだったんだと思うんです。
由結・稲井:なるほど~!
本岩:そしたらカウンターテナーの声が、裏声が強くなったんです。
稲井:上に出すためには下ですもんね。
本岩:そうです。太くて豊かな声になって、それから急にカウンターテナー歌手になったんですよ。
由結:それをきっかけにしてということですね(笑)。
本岩:その突然事故に遭ったり車を盗まれたりしたことがきっかけで、不思議なことが起こりました。僕はもっとテノールのレッスンを受けて、たくさんお金を稼ぎたかったんでトラックの運転手を辞めたくなかったんですけど、強制的に運命に辞めさせられて、突然次の週あたりからカウンターテナー歌手になって歌い始めたんです。そんなことあるわけないって思うような、不思議なことでした。それは大きな転機でしたね。
一同:(笑)。
由結:そうなんですか。導かれたんですね。
稲井:いや、導かれてますね。
本岩:そうですね。導かれましたね。
稲井:ちゃんと道が次にありますもんね。
本岩:そうですね。大体とんでもないと思うことが起きると次にものすごいいいことが起こるんですよね。そういう、これは困ったみたいなことが起こると、次にこんないいことがあるんだっていうことを何回か経験しました。
由結:もうわかってらっしゃるというか、それを体現してらっしゃるんですね。
稲井:すごい。本当にそうですね。
由結:それでは、本岩さんには、またこのお話の続きを次週もご登場いただいて伺っていきたいと思います。それでは、本日はありがとうございました。
本岩:ありがとうございました。
稲井:ありがとうございました。
銀座ロイヤルサロン2週目
脅威の4オクターブ、その声のメンテナンス法
由結:さあ、それでは、本日の素敵なゲストをご紹介いたします。クラシック歌手の本岩孝之さんです。よろしくお願いいたします。
本岩:よろしくお願いします。
由結:はい。先週も摩訶不思議なお話から、流石と思う素晴らしいエピソードをたくさんいただきましたよね。
稲井:そうですね。
由結:本日は、「脅威の4オクターブ、その声のメンテナンス法」というテーマでお送りしたいなと思っております。本岩さんは練習を欠かさずなさっているということ先週もお聴きしましたが、朝、第一声を出したときに「今日はこんな声だな」というふうに感じることはありますか。
本岩:そうですね。毎日コンディションが違うので、その中でよりよい声を出すにはどうしたらいいかって毎日格闘している感じです。
由結:そうなんですね。声についてのテーマで、本日は声解析の専門家である稲井学長と共にお送りしたいと思います。
稲井:興味深々です。
本岩:お会いできて光栄です。
由結:もうお聞きしたいことがたくさんですよね。
稲井:本当にそうなんですよね。
由結:はい。これはプロの歌手の方であればどなたもされていると思うんですが、日々のお声のメンテナンスって、本岩さんは具体的にどうしてらっしゃるのかをお聞きしたいんですよね。まず、声帯は筋肉でできていると言われますが、これを鍛えるためになにか工夫されていることなどおありなんでしょうか。
本岩:僕が一番工夫してるのは、栄養のバランスをよく食べるっていうこと、よく寝るっていうことです。特に、食べることが一番大事ですね。
由結:なるほど。食べること、そして寝ること。
稲井:声帯や体のメンテナンス、ボディケアはどうですか。
本岩:ボディケアは、僕は毎朝走ってるんですよね。呼吸するための筋肉を鍛え続けるようにしてます。わざわざ呼吸の練習をするのも大変ですけど、走っていれば走ってるだけで深く呼吸をできるので、それを結構利用してますね。
由結:なるほど。ちなみに、どのぐらい走られるんですか。
本岩:毎日違うんです。時間がたっぷりあれば長い時間、1時間ぐらい走ってますけど、時間がないときは、ほんの10分15分走ったりしています。
由結:そうなんですね。走るときにはなにか心掛けながら走っているんでしょうか。
本岩:うーん…とくに何も考えてないと思います。走るために走ってないので、あまり無理はしない。歌うために走ってるので、楽々に気持ちよく、心地良く走ってます。
由結:なるほど。
歌がうまくなる呼吸の練習
稲井:呼吸にも代表的なものに胸式呼吸、腹式呼吸とありますが、一般の方々は胸の呼吸に偏りすぎて、横隔膜が上手に使えないことが多いですよね。
本岩:横隔膜は付随筋っていいますよね。僕のイタリアの先生は、もし腹式呼吸できないなら胸郭で呼吸していいってよく言ってましたね。僕もどっちでもいいと思うんです。より深く入ったほうが深い声になりますからね。
稲井:そうですね。カラオケに行ったときなど、もっと上手に歌いたいって思ってる方は多いと思います。横隔膜は仰る通り付随筋ですから、うまく使うためのアドバイスやヒントはありませんか。
本岩:深呼吸をして、ちょっと下の下腹が動くようなぐらいにちょっと入れてみる。ちょっと意識するだけで違うので、ちょっとなさってみるといいんじゃないかと思います。でも、この便利で楽しい世の中でそういう呼吸の練習なんて、あまりにも単純すぎてみんなやらないんですよ。呼吸の練習するなんて思いもよらないですもんね。呼吸するだけの練習なんて単純すぎてなかなかやる人は少ないかもしれませんけど、やると声は深くなるし、歌うことよりも呼吸することのほうが歌はうまくなると僕は思います。
稲井:確かに。本当にそうですね。
由結:呼吸が基本なんですね。
本岩:僕はそう思います。
稲井:多くの方は呼吸が浅くなってますもんね。小さい声でこのあたりしか響かない。
本岩:そうですね。この現代のストレス社会の中だとそうなっちゃう人が多いかもしれませんね。
稲井:外国の方は結構このあたりが響くじゃないですか。顔の横ぐらいまで。歌手でもないし、別に声楽の練習もしてないのに、「はい。どうもこんにちは」みたいな、女性・男性でもすごく幅の広い方が多い。日本人は「どうもこんにちは。どうも」みたいに、上のあたりが響いている…。
本岩:全くそうですね。日本語自体がそうなのかもしれないですね。でも日本語でもセクシーに深い声でしゃべる人、たまにいますよね。
稲井:いますよね。福山雅治さんの声ような響く深い声。そのための秘訣はなにかありませんか。やはり皆さん、胸のあたりが硬いんでしょうか。
本岩:精神的なこともあると思います。なにしろストレスからちょっと解放されて、ゆったりと呼吸、深呼吸ができるといいですね。世知辛い世の中ですからね。
由結:そうですね。本岩さんを見ていると、本当に心地良さをとても大事にされてるんだなという印象なんですよね。
稲井:本当にナチュラルですよね。初めてお会いした瞬間に、いい意味でふわっと舞い降りて来られましたからね。
本岩:そうですか。
由結:スタジオにお座りになったときからエネルギーが違いましたものね。
稲井:時代の先端を行く空気をお持ちです。
本岩:先端ですか。
稲井:はい。僕の思う先端ですけど。
本岩:本当ですか。
稲井:要するに出てる空気が重くないんです。時代に合ってるなと思います。
本岩:そうなんですか。それはよかったです。僕、山梨の空気のおいしいところに住んでるので、気持ちよさがあるのかもしれません。
伝統の素晴らしさと人とのつながり
由結:山梨に住み始めたときに、なにか気づかれたことがあったとおっしゃっていましたね。
本岩:はい。僕は自分の力でなんでもやっていかなきゃいけないと思っていたんですが、そうではなく、いろんなものから力をいただいたり、ご縁をいただいたりして生きることが大切だと、山梨に住んで感じるようになったんです。あとは人とのつながりとかを大事にする土地柄だったり、古いものが残ってたりするので、伝統の素晴らしさとか、そのいろんなことを勉強しました。
由結:なるほど。本岩さんとしては、伝統を次世代に伝えたい…そういった思いはおありででしょうか。
本岩:日本の古い伝統を西洋音楽に乗せて、なにか新しいものを生み出すことができればと思っているんです。僕は声楽家なので、作曲をするわけではないので、自分の力だけではそういうことはできないので、いろんな方とお知り合いになって、なにかできればいいなと思いながら生活をしています。
稲井:コラボしながら、ですね。
本岩:そうですね。そういう方と出会ったときには積極的に協力して、できることをやるように気をつけてますね。
由結:なるほど。
本岩:一昨年出会った方とは、去年、世界遺産の仁和寺でテクノ・オペラという公演を開催しました。元々の題材は日本の古い物語だったんですが、コンピューターミュージックで作ったクラシック的な音源に合わせて歌うんです。そこにいろんな照明とかプロジェクションマッピングとか組み合わせながら、現代的にアレンジして上演するというものだったんです。それが仁和寺の方々にすごく喜んでいただいて、またぜひっておっしゃってくださったそうなので、そういうことにやりがいを感じますね。もちろん、西洋音楽をコピーするだけでもすごく素晴らしい作品がたくさんあるので、それだけでも満足できるんですけど、さらに日本からなにか発信できたらいいなと思ってます。
由結:そうですね。
エンターテインメントの力
稲井:そうですね。やはり融合する時代だと思うんです。それぞれのものを別々にせずに、いいものといいものを融合で新たなものを作っていくときがきたと思います。
本岩:いいですね。僕もだからオペラとかミュージカルとかいう名前じゃなくて、日本独特の名前のものができてもいいんじゃないかと思ってるんです。そういうことができるといいんですけど。
稲井:そうですね。例えば、今思いついたんですけど、お茶をたてながらそこで声楽をしたときのお茶の味を見てみるとか、花を生けながらその生けてるとき、その見た花の感覚で声を出してみるとか。
本岩:そんなこと思いもつきませんでした。面白いですね。
稲井:僕いつもこんな感じなんですね。会話しながらパッと思いつくんです。
本岩:じゃあいっぱい会話したいです。
稲井:はい。その中でインスパイアされて、それは面白そうだ、と。この発想って幼稚園児の会話じゃないですか。これに大人たちがもう一度戻るべきだと僕は思ってるんです。
本岩:素晴らしいですね。
稲井:はい。ねばならないが外れたときに、本当のあのころやり残したことが今出てくる。そこに昭和を生きてた人間の知恵+新しいやりたかったが融合されると、恐らく世界で一番ユニークなものができるような気がするんです。
本岩:あら。今日、僕、午前中にお会いした方と同じような会話してきたんですよね。びっくりしました!
稲井:シンクロです。
本岩:シンクロでした。驚いた。
稲井:今このように同じように考えてる方が増えていて、僕たちはそういった方々をおつなぎしたりとか、そういったことを考えてるんですね。
本岩:素晴らしいと思います。
稲井:それぞれがお持ちのものをやっぱり引き出していただいて融合していけば、本当にそういう意味で、アートが世の中を救うと僕たちも思っているので。
本岩:全くですね。この日本は、もう大量生産の時代じゃないし、付加価値の高いものを生み出していかなければ。産業とか産物とかもそうですし。そうなると、この日本が素晴らしい国だと認識されるためには、やっぱり芸術の力を借りないと。芸術や文化、エンターテインメントの力、そういうものがこれから力を発揮できるんじゃないかなと、僕は思ってるんですよ。
稲井:おっしゃる通りだと思います。もう国語、算数、理科、社会の中にはないと思います。新たな分野、学校の教科書、カリキュラムにない分野をアーティストの方々を支援することで新しい文化がこれから始まるような気がするんですよね。
本岩:うん。同じことを考えてます。
稲井:はい。
本岩:びっくりしました。
由結:本当にシンクロをたくさん起こされるという本岩さんだとお聞きしていますが(笑)
稲井:まさにこのタイミング!
由結:そうですね!
本岩:そうですね!
稲井:2022年は仲間づくりの年なんですって。
本岩:そうなんですか。へえー。
稲井:はい。2022年は人の問題を解決することがビジネスになっていくそうです。人の問題もいろいろありますけど、やはり次のステージに向かいたいとか、なにかヒントがほしい、なにかが違うなっていう方々が今模索してるんですよね。こういったときに、アーティストのその感覚、感性、表現、それに響いて感動したところから、恐らく皆さん次のステージにいくと思うんです。
本岩:いや、素晴らしいですね。新しい発想とか感受性っていうのがないことには次にはいかないですから。ただの真似事やってるだけになってしまいますからね。
稲井:そうなんです。
由結:本岩さんはこれから先、どういうようにしていこうというようなビジョンっておありなんですか。
本岩:僕はただひたすら、よりいい声で歌いたいっていうだけですね。よりよい音楽を実現させて、この世の中で満足して死んでいきたいなと。それが使命だと思ってます。
由結:ご自身というパイプを通して、音楽を通して、世の中に還元していく…それが本岩さんのお役目ということなんですね。
【リスナーへのメッセージ】
由結: 最後に、リスナーの皆様に向けてメッセージがあれば教えていただきたいと思うんですが。
本岩:はい。今日のお話を聞いてくださってありがとうございます。僕は音楽でお役に立てればいいなと思いますけど、これを聴いてくださった皆様がご自分の使命をお感じになって、よりよい時間を紡いでいかれることをお祈りしたいと思います。ありがとうございます。
由結:素敵なメッセージを頂きました。ありがとうございます。
稲井:ありがとうございます。
本岩:ありがとうございます。
本岩孝之さんのプロフィール |
熊本県八代市出身 及びバリトンを佐藤幹一氏に、テノールを森恭子、森眞一、平和孝嗣、嶺貞子、荒道子、鈴木寛一、天野秋雄、パリデ・ヴェントゥーリの各氏に、カウンターテナーを野々下由香里氏に師事。 バリトンとして、モーツァルト作曲《レクイエム》、ベートーヴェン作曲《第九》シューベルト作曲《ミサ曲第5番》のソリスト、モーツァルト作曲オペラ《フィガロの結婚》の伯爵役に出演。林望作劇・二宮玲子作曲《MABOROSI~オペラ源氏物語~》に光源氏役で主演。世界遺産仁和寺特設舞台での伊勢谷宣仁作曲テクノ・オペラ《観音抄》に司祭役で出演。 テノールとして、カルロ・ベルゴンツィ、エヴァ・マルトンのマスタークラスに参加し研鑽を積む。第5回全日本ソリストコンテスト奨励賞受賞、第10回太陽カンツォーネコンコルソ入賞。ベートーヴェン作曲《第九》及び《ミサ・ソレムニス》のソリスト、マスネ作曲オペラ《シンデレラ》の学者役。イタリアでのコンサートでは、本場のオペラファンからアンコールの大喝采を浴びる。 カウンターテナーとして、第12回日本クラッシック音楽コンクール全国大会入賞。バッハ作曲《マタイ受難曲》ソリスト。フォーレ作曲《レクイエム》(男声合唱版)ソリスト。井伊直弼と開国150周年記念オペラ二宮玲子作曲《たぬきのはらづつみ》では、カウンターテナーとバリトン両方の声を使って主役を演じ大好評を博した。 東京文化会館小ホール、東京オペラシティリサイタルホール、音楽の友ホール、文京シビック小ホール、国内最大級の野外劇場である河口湖ステラシアターでのリサイタルを始め、各地で数多くのコンサートに出演。聴衆を魅了している。 NHK-FM「名曲リサイタル」NHK-総合TV「謎缶」「アルクメデス」出演。 mf247でラップとのコラボ作品“Ave Maria~My promise”がヒップホップ/ラップ部門で第1位を獲得。Jリーグのヴァンフォーレ甲府開幕試合で“勝利を祈るアヴェ・マリア”を歌唱し始球式を行う。国民文化祭で皇太子殿下御前にてカウンターテナーで“君が代”を独唱。大相撲甲府場所や第3回ジャパンダンスグランプリではバリトンで“君が代”を独唱。武州里神楽十世家元石山裕雅と「縄文の魂」を初演。武楽「神曲 修羅六道」のエンディングテーマを歌う等、クラシックの枠を越え、幅広い活動を展開している。公益財団法人山人会第34回前田晃文化賞受賞。 CDは『Ave Maria』、『耳に残るは君の歌声~奇跡の4オクターヴ』、『ふるさと~姉弟で紡ぐ美しい日本の心』、『Ave Maria Hyper Remix』、『口づけ~本岩孝之トスティを歌う』、『バリトンでうたう愛の歌』、『富士に寄せて~姉弟で紡ぐ美しい日本の心2』、『冬の旅』、計8枚をリリース。 バスの音域から、バリトン、テノール、カウンターテナーまで、4オクターヴにわたる驚異的な音域と幅広いレパートリーを、類い稀な美しい声で歌いこなす、唯一無二の声楽家。 |