髙瀬義昌さん たかせクリニック理事長「いつだっていい日旅立ち」
銀座ロイヤルサロン1週目
由結:さぁそれでは本日の素敵なゲストをご紹介致します。たかせクリニック 理事長の髙瀬義昌先生です。よろしくお願い致します。
髙瀬:よろしくお願いします。
由結:先生をお迎え致しまして、本日は2025年に730万人になると言われている”認知症”の患者様の問題に迫っていきたいと思います。さて、先生は高齢者在宅医療に特化していらっしゃると言うことなのですが、これに至った経緯を教えて頂けますか?
髙瀬:はい。元々ですね、アメリカあるいはニュージーランド、オーストラリアのような国土の広い所の医療の提供の方法として”家庭医制度”と言うのがあります。わかりやすく言うと一人のお医者様が”内科・小児科・ちょっとした外科・精神科”場合によっては”お産”も診てしまうと言うようなオールマイティのドクターを養成するコースがありまして、これに大変興味を持ちました。それで私が出た信州大学と言うのは元々近くに”佐久総合病院”と言った”農村医学”とか「地域に根差した医療をやろう」と言う諸先輩の人達が多くいたので大変影響を受けた部分と、それからそれ以外にも多く影響を受けたドクターがいらっしゃるのですが、その中でも聖路加国際病院の”日野原重明先生”、105歳で亡くなられましたけど、10年以上ボランティアでカンファランスのお手伝いをさせて頂いた経験がございまして、大変色々教えて頂いた記憶がございます。
由結:なるほど。それでどうなったのですか?
髙瀬:私はもともと小児科医で、小児科領域の、”喘息”等の患者さんを診ていました。家庭環境が大変問題になったり”虐待”、”不登校”等もそうなのですけど、家庭内の弱者としての子どもさんをどう支えながら医療的な介入をしていくかと言う”家族療法”と言うアプローチがあります。それで今の在宅医療も大変その時の勉強が役にっています。ある意味高齢者が家庭内の弱者であることもあり、医療だけではなくて”医療とメンタル”を包括的にケア、両面からご家族あるいは患者さんを支えていくと言うことが必要だなと言うふうに感じます。若い頃に家族療法を勉強する機会があったことは、大変ありがたいことだと言うふうに思っています。
由結:そうですね。当時は非常に先進的な考えかただったのでは?
髙瀬:そうですね。まだまだ足りないところもあるのですけども、在宅を始めとする家庭の中が安定した場所であることを続けていくお手伝い。そういう意味では家庭医学と家族療法が役に立っていると思います。
由結:このご活動を通して、患者様もどんどん良くなっていらっしゃるそうですね?
髙瀬:私達がびっくりするほど良くなる患者さんも多くて…大変ありがたいことだと思います。
由結:素晴らしいことですね!ところで、”薬の飲み過ぎが認知機能の低下に繋がっている”とのことですが?
髙瀬:はい。元々精神科領域のお薬と言うのはそんなに歴史が長いわけではなくて、新しい薬が多いわけなのですが、あまり選択肢がないと言う中で不安を抱えていらっしゃる患者さんに出す薬と言うものはそんなにバリエーションなかったのです。最近では色々副作用の少ない良い薬も出てきているので、それを上手くスイッチしていくと言うことが重要なのですが、まだまだちょっと追いついていない現状もあるのかなと思います。
由結:なるほど。その辺りを適切にご指導頂けると言うことですね。
髙瀬:そうですね。ご家族、あるいは看護師さん、薬剤師さんなど関わっている方々と一緒に最適化していくプロセスが大事かなと言うふうに思っています。
由結:なるほど。認知症になられたかたが自分らしく生きる為に必要なポイントを教えて頂けますか?
髙瀬:そうですね。認知症の皆さん、あるいはご家族が安心して落ち着いた生活を送ることが大事だと思うのですけども、その為には多くの人達の支援やらコラボレーションが非常に重要だったり、認知症の人の視点でご家族以外にもう一人”支援者”と言いますか、伴奏者を見つけられるかどうかと言うのが認知症のかたが楽しく暮らせる一つのポイントだと感じる所ですね。
由結:先生は“楽しく”という観点を大事にしていらっしゃるのでしょうか?
髙瀬:はい。とっても楽しくやる、私達も楽しくなりますし、認知症の患者さん達も楽しく過ごせると言う。お互いにその作用があってですね、非常に重要な所だと思いますね。
由結:周りのご家族や周囲にもその楽しさが広がっていくのでしょうね。
髙瀬:そうですね。私がいくと患者さんもそうですけどご家族も大変喜んでくださって、血圧を計ると別の看護師さんが計った時は血圧が高いのですけども、私が計ると何かリラックスされて血圧が低くなるなんてこともありまですね。
由結:へー!そんなことが!
髙瀬:えぇ。「さっきの看護師さんちょっとこわかったかな?」なんて言うと思わず笑いがこぼれることもありますよ。看護師さんには悪いですけどね。
由結:先生の診療やご講演…きっと凄く楽しいのだろうなと思うのですけれども。
髙瀬:私も楽しませて頂いて。結構笑いが絶えない講演になることが多いですね。
由結:相互作用で皆さんが楽しく広がっていくような輪。先生は今後もお作りになっていく予定でしょうか?
髙瀬:はい、もちろん。それはどんどんやっていきたいなと言うふうに思っています。ある意味音楽を作るのと似たような所があるのかなと思います。
由結:音楽ですか?
髙瀬:そうですね。ハーモニーとか、バンド作りとかと似ているかなと思いますね。
由結:なるほど、ハーモニー!ちなみに、先生のお好きな音楽のジャンルは何ですか。
髙瀬:一応ジャズとかですね、ディズニーの曲を少しジャズ風にアレンジしたりなんて言うのはちょっとお酒が入ると弾いてしまったりして。お耳汚しに周りの人にはなってしまうのですけども。楽しんでやっております。
由結:きっと先生は右脳も左脳も両方バランスよく使っていらっしゃるので、患者様にもそれが伝わっているのでしょうね。
髙瀬:患者さんやご家族からもエネルギーを頂くこともたくさんあります。お互い様だと思いますよ。
由結:素敵ですね!最後に先生からこのリスナーのかたに向けてメッセージをお願いできますでしょうか?
髙瀬:そうですね。”在宅医療”と言う言葉はあまり耳慣れないかもしれませんけども、皆さんがご家庭や施設で楽しい療養を続けていく為の一つの選択肢にして頂ければと思います。
由結:はい。ありがとうございます。先生には実は来週もご登場頂けると言うことですので、是非このお話の続きを伺いたいと思います。
髙瀬:有難うございました。
銀座ロイヤルサロン2週目
由結:さぁそれでは本日の素敵なゲストをご紹介致します。たかせクリニック 理事長の髙瀬義昌先生です。よろしくお願い致します。
髙瀬:よろしくお願いします。
由結:はい。先生には2週目ご登場頂いているのですが、本日も楽しみにしておりました。
髙瀬:ありがとうございます。
由結:何でも先生は本日スクーターに乗って朝素晴らし景色をご覧になったとか。
髙瀬:はい。丁度お看取りだったのですけども、その時藍色と言いますか。空が段々白んでいる所になっていくと「本当に天に上るにふさわしい素敵な日だな、素敵な天気だな」と思ってお看取りの。スクーターで見ながらですね、思わずちょっとスクーターを道端に置いて写真を撮っていました。
由結:先生は何でも”いつだっていい日旅立ち”をキーワードにしていらっしゃるそうなのですけれども、その理由を教えて頂けますか?
髙瀬:はい。人はですね、必ず100年内外の人生を終えて天に召される運命にあると言えますから、そのプロセスの中では身体的に、あるいは精神的な、あるいは経済的なこととか色々あるわけなのですけど、それを一つ一つ向き合って解決していきながら、最期穏やかなお看取りにエスコートするお手伝いが。特に医療面がメインではあるのですけど、医療面だけではなくてメンタル面、あるいはそれ以外の所でもお支えすると言うか、エスコートしていくのが僕らの仕事ではないかなと言うふうに思っています。
由結:なるほど。患者様とも向き合い、そしてその周りのご家族のかたとも向き合っていらっしゃるわけですね。これが毎日365日続くとお聞きしましたが?
髙瀬:えぇ。まぁまぁそういう形ですかね。昨日から今日にかけてはお二人のかたが天に召されました。
由結:そうですか。ご家族のかたの”看取りレッスン”と言うのがあるそうですがこれはどんなものなのですか?
髙瀬:そうですね。それでお看取りをいくつかやっていくうちに、本当にお幸せなお看取りに立ち会えたと言うのはこちらも幸せな気分になります。あるいは死にゆくご本人が段々”天国と現実”の境が次第になくなってきて、本当に幸せに召されている現状を見ることが多々ありまして。最近は、厚生労働省の中に”人生会議”と言う言葉があって、いわゆる英語では”Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング)”と言うふうに言うのですけども、事前に様々ですね。例えば「医療についてはこういうのが自分は望む」とか、あるいは人によっては自分の財産お持ちのかたは「どういうふうに分ける」といったこともご相談されることがあります。それをご家族も含めてお話合いをして頂きながら、そのプロセスの中で考えかたを整理したりとか、そういう時間を経ると言うのは非常に重要なことかなと思っていて。それが”看取りの学び・看取りを学ぶレッスン”になるかなと言うふうに思っています。
由結:人生のプロセスと言うものをお聞かせ頂くと言うことになるわけですね。
髙瀬:はい。そうですね。だから私達もそうなのですけど、介護されるかたとか、あるいはもちろんご家族の人生について学んでいくプロセスそのものが”看取りのレッスン”と言うことになるのかなと言うふうに思います。
由結:なるほど。このプロセスにはあらゆる選択肢があると思うのですね。自分で決めたり決断すると言うのが苦手だったりする方にとってすごく難しいことなのではないか、と。そういう時にそっと背中を押してくださったりすると言うことでしょうか?
髙瀬:そうですね。やはりそういう形で「こういう考えかたもありますよ」と言う形でちょっとお勧めしたりする場合もあります。あるいは”決め方といいますか、決めていくプロセスの方法”をご提案する場合もございます。
由結:なるほど。人によってやりかたと言いますか、違ってくるのですね。
髙瀬:そうですね。ご家族ご家族でやっぱりそのやりかたが変わってくるのかなと言う所もありますね。
由結:ケアに携わってくださるかたも様々なご担当のかたがいると思います。そういうかたとの相性とか、やはり最初お願いする時に「心配だな」と思うかたもいらっしゃると思うのですがその点は如何でしょうか?
髙瀬:そうですね。実際の介護現場は極めて、例えて言うと音楽的な環境と言いますか、バンド活動だったりオーケストラをまとめていくようなプロセスみたいな所があって、”どういうかたと組むか自体がその人の経験になり学びになっていく”と言うことがあります答えとか教科書もない所もあるのですけども、その中で上手く自分達の感性とか、あるいは美学的な学びのプロセスと言う所がありますかね。色々組み合わせ・色んな人と組むことによって自分自身も学んでいくと言う状況があります介護の現場では実はその繰り返しだったりします。
由結:様々なかたがたのコラボであったり。あとは音楽的に言えばハーモニーと言うか調和。
髙瀬:そうですね。それが上手くはまった時は素晴らしく、こちらも嬉しくなるんですね。
由結:きっと日々奇跡を目の当たりになさっている、と。
髙瀬:えぇ。今日もまさしくそうだったと思いますね。朝ぼらけ”天とお看取りがリンクしている”ような感動を得ましたね。
由結:日々その感動を胸に、また新たな患者様にも向き合って…。
髙瀬:はい。また今日お伺いした患者さんのお宅の周りは桜が綺麗でしたね。患者さんの所行った時は。
由結:素敵ですね。日々そういった感動、楽しさ…そういうものを大事になさっていらっしゃるのですね。
髙瀬:はい。えぇ。それが非常に自分の生きる糧にもなっているかなと思います。
由結:先生のことは皆さん、”地域の見守り先生”とお呼びになっているそうなのですけれども、先生の人生のお役目と言うのはどんなものでしょうか?
髙瀬:実は世界の医療から見ると日本の医療は非常にアクセスしやすい、非常にありがたいシステムがあるわけなのですけども、逆に受診回数が多くなったりとか、さまざまな診療科の医師にかかることになってしまうのですが、色んな科の先生に通えば通うほど結果的に薬は多くなってしまう状況があります。専門的にはポリファーマシーと言っているのですが、それに対する対策も考えていかなければいけないだろうと言うこと。あと、在宅医療は始まって20年30年と言う所なので、その在宅医療の質の向上と言いますか、患者さんの生活の質・生命の質、”Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)”と言う言いかたがあるのですけど、それを出来るだけ挙げていく為の証拠作りと言いますか、患者さんと家族のために次の世代のドクター・ナース、あるいは看護の人で繋げていく為のデータ作りと言うのが非常に重要かなと言うふうに思っています。
由結:なるほど。これまで様々な患者様やそのご家族のかたにお目にかかったと思うのですが、そのような時に先生としては何を一番大事に向き合っていらっしゃるのでしょうか?
髙瀬:そうですね。基本的に在宅医療をやっている現場としては”患者さんが地域でより良い最期を過ごす為の支援を丁寧にやっていく”と言うことなのですが、実は医療以外でも、あるいは。例えば介護施設とかと言う所でも志を持ったかたがいらっしゃるので、リンクをしていきながら先程言ったデータ作りも含めてですね、新たな土俵と言いますか。いままではどうしても病院の中だけ・クリニックの中だけで収まっていたのが少し社会と接点を持ちながら同じような志の人が集うような形のプラットホームづくりみたいな仕事が私がやっていかなければいけない仕事かなと言うふうに思っています。
由結:なるほど。また、どのかたも”死への恐怖”と言うのは持っていると思うのですが、本当に安らかな最期を迎えるために、先生はどんなアドバイスをなさっていますか。
髙瀬:そうですね。自分達が家族以外に伴走者を持ったりとか、あるいは外に出ていく、オープンにしていくと言うのは非常に重要だと思います。”家族だけで固まらない”です。外に出ていくと言うのは大事かなと思いますね。
由結:オープンにする、外に出ていく…。何かあった時に自分だけでためこまないで相談できるかたを持つと言うのは大事なことですね。それでは先生、そろそろお時間になりました。2週に渡りまして貴重なお話の数々本当にありがとうございました。また是非スタジオにも遊びにいらしてください。
髙瀬:是非よろしくお願いします。
由結:ありがとうございます。それでは髙瀬先生にご出演頂きました。どうもありがとうございました。
髙瀬:ありがとうございました。
プロフィール |
信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。麻酔科、小児科を経て、以来、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。 |